【d!】殺人鬼、脅威を拾う。 (ページ9)

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そこそこ綺麗な街並みの中。趣のある建物のドアを開けると、付けられている鈴がチリンチリンと音を立てた。
見えにくい看板には、「服屋ルーベル」の文字。
意外にもピカピカな窓からは、綺麗な店内が覗ける。
今や随分と愛着の湧いてしまった服も、この店で買った物だ。

「店長、居る？」
「居なかったら開けませんけど」
「だよなぁ」

ドアにはOpenの文字が有った。当然の様にこの店の店主は奥のカウンターに鎮座している。

「…その小汚い方はどちら様で？」

店長はこちらを見ずに、自慢の懐中時計を磨きながら言った。

「ゾム。拾った」
「貴女は随分と物好きですね。大方そちらの方の服を買いに来たのでしょう。
そんな汚い格好で店内を歩き回られては堪らない。どうせ川で水を浴びただけでしょう？
お風呂に入りなさい」

店長はいつも、私が服を買いに来るたびにお風呂に入れてくれる。
店長曰く、「店内が汚れるから」らしい。それならそれでこの店長は追い出すので、根は優しいのだ。

「はいはい。…ゾム、こいつが店主の『アベル』だ。毒舌で綺麗好きな奴で、世話焼き」
「ちょっとAさん。世話焼きとは何ですか」

店長は磨いていた懐中時計から目をあげ、こちらを真っ直ぐに見た。
その顔は如何にも、「そんなつもりは無い」と言っている様だった。

「私らみたいな奴に物売る奴は漏れなく世話焼きなんだよ。
てか褒めてんじゃん」
「随分と低い基準ですね。
と言うか、貴女綺麗な言葉遣いをしなさい。やれば出来るでしょう」

店長は眉を顰める。お…私に言葉やら常識やらを教えたのもアベルさんであるので、それを実行しない私が嫌らしい。
お気付きかもしれないが、アベルさんは非常に顔に出やすい。良く言えば正直である人なのだ。

「…A？」
「ああ、ごめんなゾム。店長はいつもここに来るたびに風呂に入れてくれるんだよ。
ほら、行くぞ」
「…お、おう」

私の後ろから怯える様に見ていたゾムを引っ張り、カウンターの横を通って奥の部屋に向かった。
アベルさんは、ゾムを真っ直ぐと見つめていた。