ORDER6 ページ7
「ならっ! 俺のこと、タイムトリップさせてください! あっ……お金ならもちろん払いますから! 」
「大丈夫よ、特別なお金は取っていないの。ただ、何かオーダーをしてもらえるとお店が助かるわね」
「じゃあそれで! ……あの、シュークリームあったりします? 」
「運が良いわよ、あと一つだけ残っているわ。セットで良いかしら? 」
偶然の幸運を噛み締めつつ、彼はカウンターの椅子に座り直した。
待っている間に説明をさせてちょうだいね、と彼女の言葉を聞き、耳を傾ける。華やかなアロマを隙間に、彼女は彼の要望について話し始めた。
「まず、時計は持っているかしら? ドリップが終わってからで良いから、私に貸してちょうだい。返す時には、時計を止めたまま返すわ。そうしたら、自分が一番戻りたい時を思い浮かべて。そして、針を動かしてね」
「……はい」
「怖がることはないわ。目を開けたら貴方はもう過去よ。そこから先は、一時間だけ自由に出来るわ。……ここから先は、私の独り言と思って聞いてちょうだい」
人の生死を変えるのは勧めない、と彼女は言った。深くは聞かなかったが、アキラにはそれが何となく、大きな意味をなすことなのだろうと納得していた。
(タイムパラドックスってやつか……? まあ何にせよ、杏ちゃん死んでないし。そういうのは大丈夫だろ)
「最後に。これだけは覚えておいてちょうだい。……時計を動かしたら、未来は十中八九変わると思ってちょうだい。今と同じ未来は訪れないわ。その選択で幸せになるかもしれないし、不幸せかもしれない。……それでも、過去に戻りたい? 」
いやに、コーヒーの落ちる音が大きく聞こえた。
Aの話に、一瞬だけ身じろぐ。しかし、彼の腹はもう決まっていた。
「……はい」
雫の落ちる音が止んだ。Aは、コーヒーをカップに注ぐとまた笑って、彼の前に差し出した。
「わかったわ。それじゃあ、時計をもらえるかしら? シュークリームもすぐにお持ちするわね」
彼は何も言わずに、腕時計を外し彼女に手渡した。そうして、カウンターに乗ったカップを引換に受け取ったのである。
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幻想曲(プロフ) - 神の子依存症@鈴歌さん» ありがとうございます!表現の仕方については私もこの作品を作る上で気をつけている点なのでそう言っていただけて嬉しいです!頑張ります! (2019年4月5日 16時) (レス) id: 530eb924bf (このIDを非表示/違反報告)
神の子依存症@鈴歌 - 初コメ失礼します。情景が浮かぶような、風景画みたいな表現のしかたと不思議な切ない話に惹かれて前作から読みました。更新楽しみにしています。無理しない位で頑張って下さい (2019年4月5日 15時) (レス) id: af6ad853e4 (このIDを非表示/違反報告)
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