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数日後。そろそろ店仕舞いを、とAが外に出ると、辺りをうろうろ見回す青年がいることに気がついた。
Aは、その顔に見覚えがあった。黒板にかけた手を戻すと、にこりと笑って彼に声をかけたのである。
「うちの店に御用かしら? 」
「! あっと……その……」
「まだギリギリ大丈夫よ。コーヒーのアレンジメニューはお出しできないけれど……もし、間違いでなければ中へどうぞ」
「……」
彼は、迷ったようにまごまごとしていたがやがて、Aの誘いに負けたのか店内へと足を踏み入れた。
どこかしんと静まった店内に、カウベルの音と二つの足音が響く。カウンターに通された彼は、やがて意を決したように彼女に言った。
「あのっ、マスター! 俺、前にこの店に来た時シュークリーム食べたんです! それがすごく美味しくて! 」
「あら、本当? ありがとう、作った方も喜ぶと思うわ」
「はい、それで……俺、ブログやってるんですけど、そのことブログに書いたんです。そうしたら、変な噂を聞いたんですけど」
からん、と氷の溶ける音がした。後ろを向く彼女の手元には、水の入ったグラスが置いてあった。
「……タイムトリップ出来る、って、本当なんですか」
ごとん、と重い音がした。彼女が、冷のポットを台に置いたのだ。
しばしの間が空く。氷がぶつかる音がもう一度聞こえると、ようやく彼女は振り向いた。
「本当よ」
グラスについた結露を拭き取り、彼の前に差し出す。彼を見る彼女の顔は、変わらず穏やかであった。
恐ろしさも、狡猾さも、何も含まない。ただ優しい、変わらない、いつもの彼女の笑が顔には浮かんでいたのだった。
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幻想曲(プロフ) - 神の子依存症@鈴歌さん» ありがとうございます!表現の仕方については私もこの作品を作る上で気をつけている点なのでそう言っていただけて嬉しいです!頑張ります! (2019年4月5日 16時) (レス) id: 530eb924bf (このIDを非表示/違反報告)
神の子依存症@鈴歌 - 初コメ失礼します。情景が浮かぶような、風景画みたいな表現のしかたと不思議な切ない話に惹かれて前作から読みました。更新楽しみにしています。無理しない位で頑張って下さい (2019年4月5日 15時) (レス) id: af6ad853e4 (このIDを非表示/違反報告)
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