【第五人格】アップルティに深淵を【短編集】 (ページ9)

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ここで誤魔化しても誰かしらから彼に密告されることは経験上わかりきっているため、大人しく吐くことにする。

「…傭兵。飛ばす時に掠っ、いた、」

「これだけの傷で掠っただけ、と？」

ごめん、と謝れば溜息の後に手際よく巻かれる包帯。

跪いた姿勢のまま包帯止めの上に赤い唇を落としたジョゼフが、私のことをちらりと見上げて、それで。

その妖艶さにぞわり、鳥肌が立つ。

「あまり心配させないでくれ。君の血を見るのは僕だけで良い。そうだろう？」

「…そこは“君が傷つく姿を見たくない”じゃないのね」

「ふふ、僕に真っ当な愛を求めるのは、泣き虫に紳士性を求めるようなものさ。どうせここからは逃げられないんだ。今の状況を思う存分楽しもうじゃないか」

“まあ、それはそれとして。次のゲームは面白いことになりそうだ”

続けられた言葉に苦笑して、心中サバイバーに手を合わせておく。

半分は彼に、もう半分は私に。

真実と虚実が絡まり合っているこの世界。

自分では平常だと思っている私だって、その実転生したと思い込んでいるだけの精神異常者、なんて安直なオチかもしれない。

ただ、そうだな。彼が狂気に呑まれているのなら、案外良いカップルになりそうじゃない？

香るムスクに目を閉じる。塞がれた唇からは微かにシャルトリューズの味がした。