【第五人格】アップルティに深淵を【短編集】 (ページ2)

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一見既に怒りは収まったように思える声のトーンだが、これでも彼とは付き合いが長い。
笑っていても次の瞬間に腑を、なんて普通にある人だ。

先ほど思考を回す中で、あるいは、という一筋の光が見えたわけだし、これ以上機嫌を損ねる馬鹿は避けたい。大人しく媚びることにする。

「…そうか、っ、も」

柔らかい手袋の感触。肯定の言葉を吐こうとした私の喉を、リッパーの人差し指がするりと撫ぜる。

幸いにも鉄の爪は突きつけられていないが、あくまでまだ、というだけであって痛い思いをするか否かはこの紳士の気分次第といえよう。

紳士の癖して粘着質で、傷つきやすい彼が、嫉妬のたぐいで私を見逃す確率はゼロに近いけれど。ああ、何故私はハンター陣営なのに追い詰められているのか。

言葉に詰まった私に、リッパーが目を細める。

さて。辛うじて思い至った原因。(推測ではあるが)コトの発端は数日前に遡る。

いつも通りジョゼフとお茶をし、ゲームに参加して、その後。

2人で写真を撮った。

きっと、そう、彼が怒っている原因はそれだ。だって他に変わったことなんてしてーー

「ああ、例の写真に関してはなにも思っていないので、悪しからず」

前言撤回。
その“例の写真”について思い出したのか、目の前の男が楽しげに鉄の爪を擦り合わせた。

「ふふ、あれは実に良く撮れていた。愛らしい貴方がにっこりと笑っている様は、やはりいつ見ても心がほころぶとも。貰えるよう交渉してみたけれど、生憎と断られてしまったのは残念だったけれどね。…それで？他に思い浮かぶことは？」

写真でないとなると、いよいよわからなくなってきた。

何が彼の機嫌を損ねた？
必死で思索するも、結論は深い霧の中だ。心当たりがないのなら、わかりっこない。

私が諦めたことを察したのだろう。仮面の上からでもわかる綺麗な笑顔の雰囲気。

ーーぞくり、背中を走る悪寒。

この空気にはあまり良い思い出がない。

私の頤をくるくると撫でていた人差し指が、ぐいとリッパーの顔を見るよう顎骨に引っ掛けるようにして上に押し上げた。