呪詛 ページ36
「…どうして…」
「ん?」
「…どうして、高梨さんはそのことを俺に?」
たとえ知ったとしても、自分の中に留めておけば俺に伝わらなかっただろうに。
ミラーの中にいる高梨さんは一瞬、俺と目を合わせるとすぐに目線を車の進行方向に戻し、小さく微笑んだ。
「分からない」
ため息をつくように言葉を漏らすと、高梨さんの口から笑いが漏れる。
「黙っておこうとも思ったんだけど、、
言いたくなっちゃった。
…ダメね。超人気芸能人のマネージャー失格だわ」
自己否定しているのに、明るい声なのは何故だろう。
「高梨さん…」
「…教えてくれた人に言われたの。
この情報をどう使うかは私に任せる。
自分はもう、この件に関しては2度と関わらないって…」
「2度と…関わらない…」
「それがどういう意味なのか、なぜそうなったのかは一言も言わなかった。
ただ、彼女は結婚をやめて地元に帰った、とだけ」
「…それって…」
「…誰かは言えない。
この情報をどう使うかは、紫耀の自由にして」
高梨さんはハンドルを強く握り締めた。
* * * * *
この世界に入ってからこれまで、自分の意思よりも周りの意思を優先して生きてきた。
自分自身よりも、自分を含めた周囲にとってメリットになることを。
それが、俺の判断基準だった。
初めて、答えを委ねられた。
この世界で生きていくことと、望むものを手に入れること、
ふたつの幸せは得られない。
かつて朝比奈葉子に言われた言葉が、呪詛のように付きまとい、頭から離れずにいた。
けれど、本当にそうなのか。
本当にできないのか。
いや。できるとか、できないじゃない。
どうしたいか、なんだ。
どうしたら、できるか。
俺がどうしたいか、と聞かれたなら
そんなの、
答えはたったひとつしかない。
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愛 - 続きはまだでしょうか?急かしてるわけではなく、純粋にこのお話が好きすぎて続きが気になるんです!更新待ってます。 (2019年7月26日 23時) (レス) id: 88c3d5de1a (このIDを非表示/違反報告)
すこ - 引き込まれました。キャラクターたちの心情を、一人ひとり大事に大事に書かれてるように思います。切なくて、でもお互いを大切に思っていて、すごく素敵な作品だと思います。次の更新を楽しみにして待ってます。 (2019年7月4日 1時) (レス) id: ca0d230652 (このIDを非表示/違反報告)
atu66mi67yu129(プロフ) - 更新ありがとうございます。廉くんとは…ならないんですかねぇ…これからも楽しみに待ってます。頑張ってください。 (2019年7月3日 7時) (レス) id: c65eb063a4 (このIDを非表示/違反報告)
シー(プロフ) - 1から6まで一気に読んだくらい本当に面白いです!更新頑張ってください!! (2019年7月1日 7時) (レス) id: dfd347ea96 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - こんなに引き込まれた小説は久しぶりで、一気に読みました。続きを楽しみにしています。 (2019年6月11日 14時) (レス) id: e8aeac1cf5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピナパル | 作成日時:2018年10月22日 8時