ＦｉｒｓｔＬｏｖｅ３*･゜ﾟ･*:.｡..｡.:*･ (ページ47)

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＊存在＊ページ47

「出産後、またお世話になります」

「はいはい！待ってるからねーー！」

コールセンターの上司に頭を下げて、会社を出ると、真っ青な青空が広がっていた。

妊娠９カ月の、パンパンに膨らんだお腹を抱えて、ゆっくりと帰り道を歩く。

なんとか、出産予定日ギリギリまで働くことができた。

…ありがとう。元気でいてくれて。

お腹をさすると、ポンっとけられる。

「もう出てきたい？
まだダメだよ？あともう少しだけいてね？」

優しくさすると、また蹴られた。

元気な子。

さすが”彼”の子…

引っ越すときに、テレビは捨てた。

スマホはガラケーに替えて、番号を変えた。

本屋にも寄り付かなくなった。

すべては”彼”の顔を見ないため。

自分の中から、”彼”を消すため。

それでも、時折、職場などで”彼”の名前を聞くだけで心が締め付けられて、決して消えてくれなかった。

それどころか、お腹が大きくなるにつれて、その存在は大きくなっていった。

もしも、”彼”に話していたら、いまごろどうなっていたんだろう。

きっと、この大きくなったお腹をさすって、毎日話しかけて、誰よりも、産まれてくるのを楽しみにしてくれたはず。

誰よりも、愛してくれたはず。

私を愛してくれたように。

だけど、私は自分でその未来を選ばなかったんだ。

だからもう、自分から捨てた未来を想像して泣くのはやめる。

”彼”の存在を胸にしまって、

…戻れない過去も、進めない未来も忘れて、目の前の現実だけを見つめて、生きていく。

そうするしかない。

「永瀬くん？」

アパートに着くと、部屋の前で永瀬くんが立っていた。
私を見ると、白い歯を見せて微笑む。

「あ、仕事、昼までて言うてたから、思いついて来てしまって…お疲れ様！」

「ありがとう」

「お昼ご飯、食べた？」

「まだ…」

「俺も！どっか食べに行かん？奢るから！」

「いいよ。でも、自分で払うから大丈夫だよ」

「ええの！これまで仕事頑張ったんやから、お疲れ様ってことで奢りたいの！」

永瀬くんはそう言うと、私の鞄をヒョイと持って歩き出した。

…少しだけ強引。

だけど、人に甘えたり頼ったりすることが苦手な私にはそれくらいが丁度いいのかもしれない。

最低なのも、卑怯なのも、分かってる。

それでも、

永瀬くんが助けてくれると言った日からずっと、私に悩む暇を与えないこの強引さに救われていた。