第28話 ページ31
◇
早朝の用具室。
掃除道具を取りに来る人もまばらになってきた頃、その流れに乗り遅れた私はようやく箒を手にしたところだった。
他の五人はもう先に行っているので、私も早く追いつこうと思って急いで振り返る。
「うわっ?!」
「きゃあっ…!」
背後には誰もいないと思っていたのだが、背の低い女子がちょうど私の後ろを通り抜けようとしていたらしい。
突然振り返った私に驚いたその子は、小さな悲鳴をあげて後ろにある棚にぶつかった。
その振動で上に乗っていたバケツがぐわんと揺れる。
「あぶなっ……!」
咄嗟に私は、彼女を守るように覆いかぶさった。
ゴーン!と大きな音を立ててバケツが頭に直撃する。
目の前に星がチラつき、いっったぁ……!と私は悶絶した。
絶対これ、たんこぶ出来たって……
バケツが当たったところを押さえながら目を開けると、間近にその子の顔があって視線がかち合う。
「ご、ごめん!大丈夫?」
体を離してそっと両肩を掴み、怪我はない?と聞いたが、彼女は固まったままだ。
ふわっとしたショートボブの女の子。
愛らしい、という言葉がまさにぴったりの、まるで小動物のような子だ。
たしか、この前萩と一緒にお昼を食べていた子達の一人……名前はなんだっけ?
未だ微動だにしないので、どこか痛めたのか心配になって首を傾げて見つめると、彼女はボッと音が聞こえるくらい一気に頬を染めた。
「だっ、だだだ大丈夫です!ごめんなさいい!」
そう叫んで、彼女は逃げるように走り去ってしまった。
ちょっと待ってよと伸ばした手のやり場に困って呆然としていると、入れ違いで誰かが用具室に入ってきた。
「大丈夫か?大きな音が聞こえたが……」
「あ、降谷ぁ……」
どうやら降谷はチリトリを取りに戻って来たようだった。
そしたら大きな音がして、勢いよく一人の女子が飛び出してきたものだから驚いたらしい。
狭い用具室に一人取り残された私がその当事者だと察した降谷は、心配そうな顔をして何があったか聞いてきた。
「……女の子に逃げられました」
「は?」
私の簡潔すぎる説明に、降谷は訳が分からないと眉を寄せた。
一体何をしでかしたんだ?と先程の心配の表情の欠片もなく、彼は笑顔で腕を組む。
顔は笑っているのに目が穏やかじゃない。
青筋浮かんでる怖いって!
「ちょ、待って分かった!ちゃんと説明するから!もうふざけないから!」
私は慌てて叫ぶと、今しがた起きた出来事を降谷に話した。
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作者名:りもねん | 作成日時:2022年5月28日 14時