第23話 ページ26
◇
「──っ!はぁっ…はぁっ………」
あまりの息苦しさに目を覚まし、私は跳ね起きた。
心臓が激しく鼓動し、冷や汗がだらだらと流れる。
私は目を見開いて、荒くなった呼吸を整えようとする。
また、あの夢を見た。
何度も何度も繰り返し見る、業火に包まれて兄が死んだ日の夢を。
十余年経った今でも鮮明に覚えているあの日の記憶は、眠れば必ずと言ってもいいほど蘇って私を苦しめ続けていた。
ようやく落ち着きを取り戻して腕時計を見ると、時刻はもうすぐ二十一時を示すところだった。
テーブルの上には、昨日借りた本と課題のやりかけが放置されている。
どうやら私は今日の拳銃訓練の事件で少し疲れていたのか、学習室のソファーで眠っていたようだ。
「……頭冷やそ」
私はおもむろにソファーから立ち上がると、散らかした机もそのままに学習室を出た。
辿り着いた先は、学生棟の屋上。
まだ夜は冷える春先の空気を吸い込んで空を眺めると、ずっとうるさかった心臓は大人しくなってきた。
「おい尚、お前何してんだよ」
と、突然後ろから声をかけられ振り返ると、陣平が目を丸くして立っていた。
何をそんなに慌てているのだろう、と首を傾げたが、今自分が座っている場所を再確認して納得する。
私は屋上の縁に腰掛けている状態。
つまり、ぶらぶらと揺らしている足の下には数十メートルという、落下したらただじゃ済まないであろう高さが広がっているのだ。
「そんな心配しなくても飛び降りないよ」
「……お前ならやりかねねぇ」
「ちょっと、私の事何だと思ってんの」
クスッと笑って冗談を言うと、すごく失礼な返事が返ってきた。
はあ?という顔で陣平を見れば、さあな、と誤魔化される。
「マジで一瞬焦ったわ」
「ふふっ、ごめんごめん」
笑い事じゃねぇ、と文句を垂れながら陣平は私の隣に来て寝転がる。
おい、そこに寝るお前も人のこと言えねぇよ。寝返り打ったら永眠だよ。
くぁ〜と大きな欠伸をする陣平のくるくるした髪に手を伸ばすと、いつもはやめろと手を跳ね除けるのに黙って触らせてくれた。
手に伝わるふわふわ感と温もりに安心感を覚え、彼なりの優しさに私は微笑む。
私が満足いくまで頭を撫でると、彼は手に持っていた帽子を深く被った。
そうすると私の方からは彼の表情は見えなくて。
……ねぇ、今の私ってそんなに弱って見える?
そんな言葉は声にならず、ただ闇に染まった夜の空に吸い込まれていった。
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作者名:りもねん | 作成日時:2022年5月28日 14時