第9話 ページ12
◇
｢加賀利って、松田と幼馴染なんだよね？｣
｢ん？そうだけど……どうかした？｣
午後の講義も終わり、ガヤガヤと騒がしくなった放課後の教室。
大きな欠伸をして机に突っ伏した私に声を掛けたのは、隣の席の諸伏だった。
｢なんであんなに警察を嫌ってるのかなって、気になって…｣
｢ああ……今日の昼、降谷も似たようなこと言ってたな｣
仲の良い奴らは考えることも似るのか、と笑えば満更でも無さそうに、うん！と良い返事が返ってきた。
うわ、笑顔が眩しい。
｢陣平ちゃん、警察にちょっと恨みあるからね〜｣
私達の会話が聞こえたからか、前の席に座る萩がこちらを振り返った。
｢萩原も二人と幼馴染なんだっけ？｣
｢そーそー！俺ら三人、小学生からの仲なんだぜ｣
そう言って萩は、私を引き寄せて肩を組むと華麗にウィンクを決める。
おいやめろ、周りの視線が痛い。
近くで談笑していた女子──昼食の時の子達だろうか──と目が合って、私は無意識で彼をぐいと押し返していた。
私は小学生の頃、家が火事に遭ったため引っ越しをした。
その引っ越した先の隣の家に住んでいたのが陣平で、それをきっかけに近所に住む萩と三人でよく遊ぶようになったのだ。
気が付いたら大学までずっと一緒で、さらに職まで同じときた。
もう、切っても切れない腐れ縁だ。
｢それで、恨みって…？｣
コテンと首を傾げる諸伏に、どうせ調べたらすぐ分かることだろうと思った私はストレートに答える。
｢陣平のお父さん、昔誤認逮捕されてんだよ｣
｢え、誤認逮捕？｣
｢うん。偶然、殺人事件の現場付近にいてしまったが為にね……｣
陣平の父親はプロボクサーだった。
とても強くて顔はちょっと怖かったけど、なんだかんだで良いお父さんだった。
ほとんど家に帰ってこない父と病弱な母という環境で育ったため、度々お世話になっていたからよく知っている。
ただ、被害者が因縁のある元プロボクサーで殴殺となれば、疑われても仕方がなかったのだろう。
そのせいで控えてたタイトル戦も流れてしまって、まるで人が変わったように酒に溺れるようになってしまったのだ。
｢そんなことが……｣
｢当時は大騒ぎで、陣平ちゃんも周りに散々心無い言葉を言われてたからねぇ…｣
｢ま、そんなわけで陣平は警察が大っ嫌いってこと……無理もないよ｣
そう言った私の顔がまるで自分の事を話す様に暗かったと知ったのは、萩に指摘されてからだった。
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作者名：りもねん | 作成日時：2022年5月28日 14時
