〇拾壱〇 ページ12
深沈とした様子で言ってのけると、恭しく腰を折る露月。
「それは何故だ。」
感情を欠いた声はそのままに、ジュダルの眉根はにじり寄り、眉間にいくつかの筋が立った。瞳孔がきつく吊り上がったその顔は、容赦なくヒトを食む獣のような残忍さを感じさせる。
「変えられぬものを妬み、恨むなど
私の見目を侮辱する彼女たちとなんら一緒ではありませんか。」
露月の脳裏に浮かび上がったのは、己を虐め、甲高く笑う淵明らの姿であった。
「…恨みを抱えている者は、ひどく、哀れに見えます。」
皇帝に愛されず、“后” という名ばかりの肩書きに縛られ、露月を痛めつけることでしか自分の強さを誇示できない。どんな時も無償の癒しをもたらす草花にすら、心を慰めてもらえない。否、もらおうしない。
嗚呼、なんて可哀想な人。
「ならお前は、自分が哀れだと思う奴らに侮辱されて悔しくねぇってのか。」
ジュダルの声に、ほのかに焦燥の色が宿った。
────悔しい、か。
露月の瞳の中で
それは、屈辱や憤怒といった、人間として当たり前の感情を捨て、すべてを諦めた露月の悲痛な叫びだった。
「ジュダル様は、先程から私を過大評価しておられます。」
淡々とした、
「私がこのような扱いを受けることが運命と仰るなら、
それもまた自然の摂理というもの。抗うことはございません。
私は既に、すべてを諦めておりますゆえ。」
妬むでも、恨むでもない。諦める。
これこそが、露月が九、十年かけて身に付けた、現状の最善策だった。
露月の頬に残る扇子の痕が、痛く主張している。
「運命を壊す…?
私には、そのような器も気力もない。
もう、残っていないのです。」
齢十に満たぬ少女が自分の人生を諦めているという事実は、鉛のように重く、異様だった。
重い、あまりに重過ぎる。
絶望すら飲み込んでしまった露月の冷淡さに、ジュダルは思わず後ずさった。
「貴方様も高貴な血を持つ方ならば、
私のようなものとは関わらないようにするのが得策でございましょう。」
幼く美しい顔は黒い
足元に彩り豊かに咲く
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√ルート(プロフ) - 亜純さん» コメントありがとうございます!私の文章力が拙いせいでお待たせしてしまい申し訳ありません。こだわりが強すぎてどうも筆が進まなくて.....不定期更新は続きますが、少しでも皆様も期待に添えるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします!! (2018年7月31日 12時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
亜純(プロフ) - 続きが気になります!更新頑張ってください! (2018年7月31日 0時) (レス) id: 430739def7 (このIDを非表示/違反報告)
√ルート(プロフ) - 返信が遅くなってしまい、誠に失礼致しました。まだまだ稚拙な文章しか書けない私には、勿体無いご感想です。本当にありがとうございます!!主人公の美しい一面も、裏を覗けば苦悩や窮愁に埋め尽くされている。主人公の濃密な人生を、皆様に楽しんで頂ければ幸いです。 (2018年5月27日 16時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
Seere(プロフ) - 一語一句が本当に綺麗で、琴線に触れるものがある文章ですね。主人公の凛とした美しさに儚さを感じます。これから後宮でどんな活躍を見せるのか楽しみです。応援しております(^^) (2018年5月26日 21時) (レス) id: 602f4a06eb (このIDを非表示/違反報告)
√ルート(プロフ) - 麻侑さん» ありがとうございますっっ!比喩表現には特にこだわっているので、褒めていただけて嬉しいです!!嬉しすぎて変な笑いが込み上げてきそう(クエヘヘヘヘヘッヘ←不定期更新ですが見守って頂けると有難いです。 (2018年5月19日 10時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:√ルート | 作成日時:2018年5月18日 0時