終章 ６ ページ29
頭が軽い。項に風が優しくふぶいて気持ちがいい。
転がされたせいで汚れたジャージの土を払いながら、
コートのある方向とは反対側に歩いて行く。
他の部員からは見えない位置まで来たところで、
侑士君が追いついてきた。
「お疲れ様。もう部活は終わってしまったわね。」
少し緊張が走る。
見られてたんだから、侑士君が来るまでのことも。
「なぁ自分...」
「迷惑かけてごめんなさい。一部始終、見てたでしょう？」
「ああ。」
「私、退部かしら？」
侑士君が眉を顰める。
「そんなわけないやろ。
先に手ぇ出したんはあっちで、自分は被害者や。
あいつらの処分は、部長である跡部と監督が決めることやしな。」
「処分...」
少し俯き加減に呟くと、
さっきよりも随分明るい声色で「まぁ」と彼は続けた。
努めて軽いように言ってくれているのだろう。
「自分があんだけメンチ切ったら、何も言わんでも辞めるやろ。」
苦笑を浮かべる侑士君を見て、
しょうもない厄介事に巻き込んでしまったことに
今更ながら申し訳ない気持ちになる。
神経質な空気が、私を罪悪感で染めていく。
「どこから見ていたの？」
「そうやなぁ...嬢ちゃんが脇腹に蹴り入れられたとこくらいか？
見事な背負い投げやったな。」
「ありがとう？」
「アホ。」
突然の「アホ」が腑に落ちず見返すと、
侑士君がすっかり短くなってしまった私の髪に触れた。
大きな手。少し角張った指。手入れの行き届いた綺麗な爪。
心が跳ねる。
髪をすかれているだけなのに、そこに熱が宿るようだった。
「髪、止めてやれんで堪忍な。」
「ううん、何となく切るタイミングがなかっただけだから。
仕事するのに邪魔だと思ってたいたし。」
お母様が気に入っていたから、髪の手入れは欠かしていなかった。
天使の輪ができる、背中までの黒髪ロングヘア。
またひとつお母様を裏切った。
でも、心は驚くほど軽い。
「強がりちゃうんか？」
私の髪を梳きながら、
夜空に似たブラックブルーの瞳が悲しさを帯びる。
「本音よ。」
「ん、嘘は言ってへんようやな。」
答えを聞いて侑士君が浮かべた表情には、
試合中のポーカーフェイスも冷徹な雰囲気も感じられない。
柔らかく優しい、微笑み。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 45人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「アニメ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
√ルート(プロフ) - 返信が遅れてしまい、申し訳ありません！！そんなに気に入って頂けるなんて、悩みながら書いた甲斐がありました...(笑)とても励みになります(≧▽≦) (2018年8月20日 2時) (
レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
ユッキー(プロフ) - このお話、大好きです！文才力すごいですね！ (2018年8月16日 3時) (レス) id: 127851c6f5 (このIDを非表示/違反報告)
√ルート(プロフ) - くしぇるさん» 処女作でそんなことを言って頂けるなんて感謝感激雨あられです！新作でお会いできたときには、応援して下さると嬉しいです！ (2018年4月28日 11時) (レス) id: 46231e2a59 (このIDを非表示/違反報告)
くしぇる(プロフ) - めっちゃ面白かったです！！ (2018年4月26日 21時) (レス) id: bc0907c9ab (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：√ルート | 作成日時：2018年3月27日 23時
