Case.Gimlet ページ23
ギムレットのセーフハウスに滞在を始めてから、1ヶ月半が経過していた。
季節は夏を越し、しばらくすれば残暑も消えるだろう。
今のところバーボンとしての立ち回りに問題はなく、任務は滞りなく進んでいる。
シュッと手首にスプレーを吹きかけると、馴染んだ香水の香りが鼻腔をくすぐった。
…弱いか?
近くにいないと分からない程度に調整はしているが、最近毎日使っているからか、鼻が慣れてきたような気もする。こうなると、自分では分からない。
僕は同室の相方を振り返った。
「なぁヒロ、これ香水の匂い分かるか?」
「香水?えっと…ちょっと待ってくれ」
わざわざ準備の手を止めて、ヒロはこちらに近寄ってきてくれる。
このセーフハウスのゲストルームは、ツインとシングルが1室ずつ。
初日に好きに選べと言われたので、一も二もなくヒロと一緒にツインを選んだ。答えた直後にあからさまだったかと後悔がよぎったが、思いがけず知られたライ嫌いのおかげか、逆に納得されてしまった。
大変に不本意だが、結果オーライとして受け止めている。
すん、と鼻を鳴らしたヒロは、首を傾けてううんと唸った。
「いつもより、少し強い…かも?」
「え、ほんとか?」
慌てて腕や襟の匂いを確かめる。
分からない。
弱いかと思ったら、むしろ強いなんて。だいぶ鼻が慣れてしまっていたらしい。
「多分、服に結構移ってるんだと思う。ゼロ、最近いつもそれつけてるし」
「…落とした方がいいか?」
いくら好きだと言われた匂いでも、強いのはよろしくない。まだ手首だけだし、石鹸で洗えば少しはマシになるだろうか。
「いや、それくらいなら問題ないと思う。元々弱めだったし、これでも普通より弱い。今日の任務が潜入なら考えたけど、下見なら大丈夫じゃないかな」
そう言われて、はたと瞬いた。
僕は今、何を思った?
ヒロは任務内容を判断基準に話している。
当たり前だ。組織の任務は些細なことまで気をつかう。したがって、任務の障害となるか否かが、すべての行動の基準だった。
はず、なのに。
――私は嫌いじゃないけど
「…ゼロ?大丈夫か?」
「…いや、…うん」
耳に蘇った彼女の声を振り払う。
一体何を考えているんだ僕は。
「…今日はこのまま出るよ。明日からはしばらく控える」
「それがいいよ。特にゼロは諜報メインだし、万が一もあるしね」
そう言って、ヒロは自分の準備に戻っていく。
「…そうだな」
その背にぽつりと呟いて、香水の瓶をしまい込んだ。
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胡蝶(プロフ) - 藍色さん» コメントありがとうございます!もったいないお言葉です…が、とてもとても嬉しいです!語彙力捻り出しながら書いた甲斐がありました…。書くのが遅い上に煮詰まっていて遅筆に拍車がかかっておりますが、どうかお付き合いくださいませ。 (2022年8月17日 13時) (レス) @page14 id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
藍色(プロフ) - 作者様のキャラの感情表現、文才能力が凄すぎます…!度々一人で悶えながら読んでます!面白い作品に出会えて私は幸せです(´;ω;`)更新楽しみに待ってます! (2022年8月16日 3時) (レス) id: 82bbddf0f3 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - ねるさん» コメントありがとうございます!一気読み嬉しいです!書くのが遅くてお待たせしておりますが、頑張って更新いたします…! (2022年8月9日 15時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
ねる - 一気読みしてしまいました!続き待ってます!更新頑張ってください(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) (2022年8月8日 9時) (レス) @page27 id: a5b6221b88 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶(プロフ) - かるぴんさん» コメントありがとうございます!楽しんで頂けて嬉しいです!特に二幕はデレ期のつもりなので…距離感を詰めていく様子にお付き合い下さいませ! (2022年7月14日 20時) (レス) id: 99e92a821f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年6月25日 12時