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“ギムレット”は、ライムジュースとジンで作られる。そのカクテルから、わざわざジンを除いて“ライム”と呼んだベルモットの表情に、愉悦は含まれていなかった。だからあれは、純粋にギムレットを想ってつけられた愛称なのだろう。
つまり――“ジン”を除くことに意義がある。
「…ええ、十分です」
事前にギムレットについて調査した時、まことしやかに流れている噂があった。
“ギムレットはジンの命を狙っている”――と。
隣にいたスコッチも噂は知っていたらしく、この返答に少々青ざめていた。
「そ、それ…ジンは知ってるのか…?」
「知ってるも何も、すでに実行した」
「えっ!?」
「見ての通り失敗したけど」
「ひえ…」
スコッチがますます青ざめていく。このまま一緒に任務についていいのかと顔に書いてある。
僕も同感だ。
「…でも、その上でアイツは私をこの組織に引き入れた。逃げないように、悪趣味な枷までつけてね。…屈辱すぎて反吐が出る」
自嘲気味に鼻で笑う様に偽りはなさそうだ。
つまりジンは、自分を殺そうとしている女を、お気に入りとして側に置いているということか。
あの男とは数回顔を合わせただけだが、どうやら残忍な上に嗜好まで歪んでいるらしい。とはいえ、こんな真っ黒に染まった組織の幹部などしているのだ。今更驚きはしないが。
「貴重な情報をありがとうございます」
丁寧にお辞儀をしてみせれば、ギムレットはふっと口元を緩ませた。
「別に、大して貴重でもない。そもそもあの噂は私が流したものだし、今の話も広めてくれていい」
「……!」
「なんでそんなこと…?」
驚きで目を見開くだけだった僕の心情を、スコッチが代弁してくれる。だって分からない。どんな任務でも完璧にこなしてみせる彼女が、どうしてわざわざ失敗談を流すのだろうか。
「…なんで、ねぇ…」
つい、とこちらに視線が向く。
途端に、さっきまでの素っ気なさが鳴りを潜め、代わりに僕達を見る瞳が蕩けるような熱を孕んだ。
「っ」
思わずごくりと生唾を飲む。
「…だって、いるかもしれないでしょ?」
緩ませていた口元を吊り上げ、ギムレットはうっそりと妖しい笑みを浮かべた。
「噂を信じて私に手を貸してくれる、心優しい誰かが…ね」
――――ドク。
どこからか湧き出た熱が、胸の内にわだかまった。
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胡蝶(プロフ) - カイさん» コメントありがとうございます!キャラクターの“らしさ”の部分は結構気にして書いているので、気づいて頂いてとても嬉しいです!更新頑張ります! (2022年5月19日 23時) (レス) id: 1da46a4e4a (このIDを非表示/違反報告)
カイ - えええ…素敵すぎて今日初めて拝見したんですけど、全て見終わっちゃいました…。キャラクターの性格をよく噛み砕いて書いてる印象を受けました。コナンファンには絶対読んでもらいたいー! (2022年5月19日 0時) (レス) @page35 id: 6aad3c552e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年5月18日 2時