検索窓
今日:573 hit、昨日:2,753 hit、合計:777,060 hit

. ページ33

“ギムレット”は、ライムジュースとジンで作られる。そのカクテルから、わざわざジンを除いて“ライム”と呼んだベルモットの表情に、愉悦は含まれていなかった。だからあれは、純粋にギムレットを想ってつけられた愛称なのだろう。
つまり――“ジン”を除くことに意義がある。

「…ええ、十分です」

事前にギムレットについて調査した時、まことしやかに流れている噂があった。


“ギムレットはジンの命を狙っている”――と。


隣にいたスコッチも噂は知っていたらしく、この返答に少々青ざめていた。

「そ、それ…ジンは知ってるのか…?」
「知ってるも何も、すでに実行した」
「えっ!?」
「見ての通り失敗したけど」
「ひえ…」

スコッチがますます青ざめていく。このまま一緒に任務についていいのかと顔に書いてある。
僕も同感だ。

「…でも、その上でアイツは私をこの組織に引き入れた。逃げないように、悪趣味な枷までつけてね。…屈辱すぎて反吐が出る」

自嘲気味に鼻で笑う様に偽りはなさそうだ。
つまりジンは、自分を殺そうとしている女を、お気に入りとして側に置いているということか。
あの男とは数回顔を合わせただけだが、どうやら残忍な上に嗜好まで歪んでいるらしい。とはいえ、こんな真っ黒に染まった組織の幹部などしているのだ。今更驚きはしないが。

「貴重な情報をありがとうございます」

丁寧にお辞儀をしてみせれば、ギムレットはふっと口元を緩ませた。

「別に、大して貴重でもない。そもそもあの噂は私が流したものだし、今の話も広めてくれていい」
「……!」
「なんでそんなこと…?」

驚きで目を見開くだけだった僕の心情を、スコッチが代弁してくれる。だって分からない。どんな任務でも完璧にこなしてみせる彼女が、どうしてわざわざ失敗談を流すのだろうか。

「…なんで、ねぇ…」

つい、とこちらに視線が向く。
途端に、さっきまでの素っ気なさが鳴りを潜め、代わりに僕達を見る瞳が蕩けるような熱を孕んだ。

「っ」

思わずごくりと生唾を飲む。

「…だって、いるかもしれないでしょ?」

緩ませていた口元を吊り上げ、ギムレットはうっそりと妖しい笑みを浮かべた。

「噂を信じて私に手を貸してくれる、心優しい誰かが…ね」


――――ドク。


どこからか湧き出た熱が、胸の内にわだかまった。

.→←.



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (211 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
785人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

胡蝶(プロフ) - カイさん» コメントありがとうございます!キャラクターの“らしさ”の部分は結構気にして書いているので、気づいて頂いてとても嬉しいです!更新頑張ります! (2022年5月19日 23時) (レス) id: 1da46a4e4a (このIDを非表示/違反報告)
カイ - えええ…素敵すぎて今日初めて拝見したんですけど、全て見終わっちゃいました…。キャラクターの性格をよく噛み砕いて書いてる印象を受けました。コナンファンには絶対読んでもらいたいー! (2022年5月19日 0時) (レス) @page35 id: 6aad3c552e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年5月18日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。