spring moon

#07 ページ7

spring moon #07

「それじゃあ、そろそろ行きますね」

このまま話していると幾分時間を忘れてしまい
そうだと、彼に申し訳なく思いながらも話しを
切り上げようとする。

「はい...またあとで！」

ふにゃふにゃと笑みを浮かべながらそう言った
彼に手を振りながら止めていた歩みを進める。

ちらりと時折振り返ってみると、彼は私の姿が
見えなくなるまでカフェの外でこちらを見つめ
て居るのが分かった。

優しい子なんだろうな、なんて思いながら思い
がけない彼との遭遇に笑みを浮かべてしまう。

最初は良くしてくれる店員さん、だった筈なの
に知らないうちに幾分距離が縮まっている様な
気がした。

常連、なんて言葉の意味がイマイチ分かってい
なかった私だけれど正しくこういう事を言うの
だろうかと胸が暖かくなった。

雪をぎゅっとスニーカーで踏みしめながら地下
鉄前に向かう。

歩いている最中にふと、" それから来てもダニ
エルさんは居ますか？ "と自分から聞いた言葉
に首を傾げてみせる。

私がカフェに寄る理由がラテを飲む為ではなく
彼に会う為の様に聞こえてきてしまい、途端に
恥ずかしくなって来る。

けれど深く考えてみても仕方がない、彼もそれ
以上は何も言及しなかった訳なのだからきっと
気にしてもいない筈だ。

咄嗟に出た自らの言葉を不思議に思いながら、
歩みを進めている先に見えるジソンに大きく手
を振ってみせた。

「中々来ないから何かあったのかと思ったんだ
よ、ちゃんと連絡してくれないと心配する」

「ごめんね、途中カフェの男の子に会ったの」

「この前話してた店員の子？」

「そう、今日はラテ飲まないのかって...」

寒空の下待たされた事が気に入らないようでい
て、私の事を心配してくれているジソンの母性
に嬉しさを感じながら。

どちらと共なく寒さを凌ぐ様に、地下鉄へと繋
がる階段をゆっくりと降りていく。

入り口の重たいドアを押し込んで中へと入れば
外とは比べ物にならないくらいの暖かい風が、
身体を一気に包み込んだ。

「あそこのカフェ行った事ないから分かんない
けど、そんなに美味しいの？」

「美味しいよ、今度ジソンも一緒に行こう？」

「え...行く！」

即答されてしまい思わず吹き出せば、何故笑う
のだと怒られてしまう。

けれど、きっとジソンもあのカフェに行って私
の様にラテを頼んでみれば暖かさに気付くから。

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