【本編小説】この夏は君と。 (ページ37)

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◇優しい人［冬涙雪］ページ37

百々ちゃんの姿を見た私はきっと、ちゃんと笑えてなかったと思う。絶対に動揺が隠せていなかった。

まさか、こんなところでまた会うことになるとは思っていなかったから。

なんて言葉をかけたらいいか分からないし、久々すぎて私の事なんて覚えてないかもしれないって思ったから。

幼馴染ではあるけど、随分と離れてた期間が…。

たらたらと背中を汗が伝った。これは暑いから出てる汗じゃない。絶対に冷や汗。さっきまで暑いくらいだったのに、今はすごく寒気がする。

「……あ…ぁ、…え、え、えっと……」

緊張で涙が出そう。急に肩が重くなったように感じて俯いた。

何か言わないと…。私たちがこうなってから、さっきまで明るかった雰囲気が、一気に暗くじめじめとするような雰囲気に変わった。どうにかしないと…。…で、でも、どうしよう。どうしたらいい…？

「あっ！見て見て！向こうにも誰か来てるみたいだよ。」

私と百々ちゃんの険悪な雰囲気に見かねた里村さんが、私たちの暗い雰囲気をかき消すように大きく明るい声で言った。

里村さんのその声で、紅邑くんが「えっ、どこどこ？」と周りを見回した。それに釣られて沙耶香ちゃんと三葉さんがキョロキョロと辺りを見回し始めた。

私と百々ちゃんは、気まずそうにお互い1歩引いて、そっと目を逸らした。向こうだって気まずいのは同じなのだ。焦ったのも驚いたのも私だけではない。

しかし、百々ちゃんは取り繕うのが上手い。他の人たちが辺りを見回しているほんの少しの間に、またいつものような人懐っこい可愛らしい笑みを口元に浮かべていた。さっきの暗かった雰囲気ですらも、その笑顔の中に隠しこんでいた。

対して、上手く笑顔を作れない私。ちゃんと笑わなきゃ。さっきの気持ちを引きずっちゃだめ。
頑張って口角をあげようとする私を、心配そうに紅邑さんがちらりと見た。優しい人だなぁ…。

里村さんと紅邑さん、絶対に気を使ってくれたんだ…。初対面なのに、本当に申し訳なさ過ぎる…。今すぐにでも泣きながら謝りたいが、生憎みんながいる今は謝れそうにない。後で絶対に謝らないと…。

救いの手を差し伸べてくれた当の里村さん本人は当たり前のように爽やかな笑みを浮かべている。…笑顔が眩しい…。
初対面の人に対してそんなに気を利かせることが出来る里村くんは、絶対に学校でも明るい中心的な人物なんだろうな、と思った。