【本編小説】この夏は君と。 (ページ35)

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6月30日。いよいよ梅雨の季節も終わりを迎えていた。じめじめとした空気が一変して、からっとした暑さに変わる。暑いことに変わりはないのだが、寝苦しい日々からは解放された。そのおかげで毎日熟睡できるのだが、今日はそういうわけにもいかない。
　集合場所から遠く離れたところに住んでいたおれは、今日中に集合場所である海辺の近くまで、泊りがけで行かなければいけないのだ。さすがに、集合場所の付近にホテルはなかったらしく「少し離れた都心まで連れて行くから後は電車と歩きで頑張りな」と姉に言われ、現在はホテルに行くために車に揺られている。免許取りたての姉の運転はお世辞にもうまいとは言えず、急ブレーキが多かったりいきなりカーブをしたり……と散々だった。

　早めに家を出たはずなのに、既に時刻は12時を過ぎている。ナビを見ても、まだホテルには着かなさそうだった。
　そしてその約2時間後に、ようやく目的地のホテルが見えてきたのだ。ナビの予想ではもっと早く着く予定だったが、車の運転初心者の姉には難しかったらしい。とはいえ、チェックインの時間にはまだ早いため、人通りが少ない道路の脇道に止めることにした。

「感想聞かせてよね」
「……感想があればね～」

　チェックインできるまでの少しの時間、姉さんと話していたとき。ふいにそう言われた。これもまた修学旅行が終わった後のようだ。反省・感想文を書かされたが、未提出で知らんふりしていたら補導された覚えがある。
　めんどうくさいけど、まあ適当でいいか……そう思いながら、シートベルトに手をかける。それを見た姉さんが驚いたように声をあげた。

「えっ、もう行くの？」
「うん。だって3時近いし」

　そう言い、頷きながらシートベルトを外すと、車から降りてトランクからリュックサックとキャリーケースを取り出した。リュックサックは背負ってしまえばなんてことない。だが、キャリーケースはリュックサックとは比にならないほど重い。入れている量が違うので当たり前だが、これを引っ張って歩くことを考えると足取りが重くなる。しかし、ここに来てしまったからには行くしかない。
　ふう、と息を吐くと姉のいる運転席に回り込む。おれに気づいた姉さんが車の窓を開けて対話できるようにしてくれた。

「んじゃ、気を付けてねー」
「はーい。送ってくれてありがと～」

　小さく手を振りながら車から離れる。――一瞬、姉さんが面を喰らったのは気のせいではないはず。