【本編小説】この夏は君と。 (ページ30)

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◆行き先は同じ[くろーさぎ] ページ30

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自分のコミュニケーション能力に自信がないわけじゃない。
ただ、見知らぬ女子達に男子一人で声をかけるのは、さすがにハードルが高いと思った。
だから、集合場所の影で立ち尽くしている、僕と同い年くらいの男子は、声をかけるにはちょうど良かったのだ。

「行こうか、色羽くん」

黄色の髪の女の子――男の子っぽくも見えたが――に呼ばれて僕が言うと、色羽くんは慌てた様子でこくんと頷いた。

「あ、うん……！」

こっちこっちー、と手を振る黄色の髪の少女と隣の白髪の少女も、やはり僕達と同じ歳に見える。「二人共、行き先が同じなんだね」と話しかけながら、いつものように僕はなるべく笑顔を心がけていた。

「って事は、やっぱりおんなじ島かー。そうだ、自己紹介しない？同じ船に乗るんだろうし、名前を知らないままだとお互い呼びづらいじゃん？」

そう言って彼女が名乗ったのは、朝黄沙耶香という名前だった。やっぱり女の子か、と思いながら「僕は里村水月。気軽に何とでも呼んで」と自己紹介をする。

「えぇと……べ、紅邑色羽。よ、よろしく……！」
「僕と色羽くんは、ついさっき、そこで会ったばかりなんだけど……君は何て名前なの？もし良ければ教えて欲しいな」
「……わ、私は……」

白髪の少女は、まるで僕に背後から声をかけられた時の色羽くんのように、おろおろとした様子で僕を見た。なるほど、この二人は人見知りのようだ。
自慢ではないが友達が多い僕には、当然シャイな友人もいる。こんな所で警戒されるのもなんなので、すかさず僕は付け足した。

「あ、ごめんね、言いたくなかったら言わなくて良いんだよ。いきなり知らない男の子に名前を聞かれても、答えづらいよね。そこまで気が回らなくてごめんね？」
「あ、い、いえ！だ、大丈夫です……冬涙雪、です。き、気を遣わせてしまってごめんなさい……」
「あぁ、いや、こっちこそごめん。そっか、冬涙さんと朝黄さんだね。同じ島へ行くんだったら、まだ時間もあるし、皆でお喋りでもしてようか」

先程まで朝黄さんが先に立って話していたのに気づけば彼女はうんうんと首を縦に振るだけ。自然と話の中心に立つのは得意だけれど、僕はつい口にしそうになった。

(僕は皆が思うような良い奴じゃない)

頭では分かっているのに、仲良くなろうと咄嗟に口が動いてしまうのだ。

(それを変えるために島へ行くんだろ？)

僕達の宝石の色が違うのと一緒だ。
行き先は同じ。でも、目的は違うのだろう。