【本編小説】この夏は君と。 (ページ23)

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◇怠惰と興味[三葉梢] ページ23

「んー…手紙ってどうしても読む気にならないんだよねぇ…」

少し膨らみのある封筒の端を持ってひっくり返せば、重力に従ってぼとぼとと落ちてくる同封物。
友人と見た鍵、＿何枚か裏返しになってしまったが＿写真の中の風景、そして二枚程入っていた手紙。

手紙を手に取り、文字を一つ一つ解しながら、裏返しになっていた写真に度々視線を落とす。
"ここで、ひと夏の思い出を作りませんか？"と綴られている手紙は、内容を読み進めていけばどうやら招待状であるらしい。
ぼそぼそと口を動かしながら内容を齟齬が無いよう噛み砕いていくと、ふいに声変わり前の高めの声が頭上を駆ける。

「梢、それ誰からの手紙？ちょっと中見せてよ」

「瑞樹、それ台詞だけ聞いたら束縛彼氏だよ。まぁいいけどさ」

「いや、梢に彼氏なんか一生出来ないから」と言いながら手中にある手紙を引き抜く弟は最近冷たい。
以前は双子揃って姉ちゃん姉ちゃん、なんて可愛かったものだが…。すっかり姉離れした瑞樹に、最近は睦月まで浸されていっている。

「え、何々？それなーに？」

「梢への手紙。変だよな。今時手紙なんて」

「でも見なよ瑞樹！この写真綺麗でしょ！！」

「まぁ…確かに綺麗だけど。でもお前が撮った物じゃないじゃん」

「そりゃそうだよ。だって私こんな島知らないもん。いいなー行きたい」

弟に見せつけた写真の中にある澄んだ海と白い砂浜、海よりも明るい色をした空。四角く切り抜かれた世界はまるで別世界だ。好奇心が疼く。

意図せず漏れた本音に「まぁ家も忙しいし…止めようかな」と付け加えた。
どちらも嘘偽りのない本心だ。
親は共働きで長男は就活。次男は彼女さんのお手製弁当だが、弟二人の弁当を毎日作ってやっているのは紛れもない私なのである。

「行ってくればいいじゃん！」

「いや行きたいよ？行きたいけど…アンタらの弁当どうすんの？母さんにこれ以上負担増やせないし…」

「意外と親孝行なんだな。お前の事だから、そこに行く分の旅費で自分の小遣い減らされるーとかかと思った」

「なにさ恭平…いいもん。今度おじいちゃんにお小遣い貰うし。社会人はとっとと自立しろ！」

傍に転がっていたクッションを引っ掴んで兄に投げつける。避けた先には丁度帰宅した次男陽斗こと金髪馬鹿。「ただいま」という声を掻き消してクッションは綺麗に顔面へと吸い込まれていった。許せ兄弟。