【本編小説】この夏は君と。 (ページ19)

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「ああ、そういえばね。今年の夏休みはしばらくの間、おばあちゃんのお家へ行こうかなって思ってたのよ！」

「……へ？」

突然言われたことに、一瞬ぽかんとしてしまった。
俺の表情に気付いているのかいないのか、母はまったく気にせず話を続ける。

「ママたちお仕事ばっかりだから、絋矢たちが退屈かなーって思って。しばらくの間田舎のおばあちゃん家に行って遊んできたら良いんじゃないかってパパとも話してたのよ」

「やったあ！」

「じゃあおにーちゃんもそれ行ってこれるね！」

「はっ、え！？」

自分を置いてとんとん拍子で進んでいく会話。
というか、ばあちゃん家に行くとか聞いてない。

「絋矢はいつも頑張ってくれてるから、夏休みくらい遊んできなさい。２人もこう言ってるし」

「……ありがとう」

ほんの少し不安は残ったが、俺は母に礼を言った。

「そうそう、たまには彼女の１人くらい連れてきてちょうだいね」

「は、はあ！？なんでそんな話になるんだよ」

だってー、といたずらっぽく笑う母さん。
……まあとにかくそういうわけで、俺は謎の招待状に書かれた島へ行くことが決まったのであった。

* * *

「＿＿矢、おい絋矢？」

「え？」

突然名前を呼ばれ、俺は目を瞬かせた。
目の前には友人数人がいて、こちらを覗き込んでいる。

「悪ぃ、なんだ？」

「ちゃんと聞いとけよー、いつものメンバーで夏休み中にどっか行こうって話してたじゃんか」

「絋矢、最近ずっとぼんやりしてるよねー。なんかあったの？」

隣の女子がけらけらと笑う。
ごめんって、と笑って誤魔化した。

「どうせなら遊園地とか行かね？電車で行ってさ」

「いいねーそれ！皆行けるだろ？」

だが皆が盛り上がる中、俺はそっと手を挙げた。

「あー……俺それ行けねえわ」

「え、マジ？」

「夏中ずっとダメなのー！？」

先程の雰囲気とは一転、戸惑った表情を浮かべる彼らに頭を下げる。
正直なところ、さっきもあの招待状のことで頭はいっぱいになっていた。

「ほんとごめん、ちょっと出掛ける予定が入ってさ」

「なんだよー……つーか夏中ダメって、旅行でも行くのか」

「ちょっとな」

まあ行けないなら仕方ないけど、という言葉にほっとする。
彼らのこういうところは付き合いやすくありがたい。
その後、俺は皆から「夏にどこへ行くのか」と質問攻めに遭うことになった。

外の雨は上がり、真っ青な空が広がっている。
＿＿もうすぐ、夏休みだ。

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