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こんな不確かであいまいでけれどどうしようもなく心を満たすやわらかいなにかを幸せだと名付けたどこかの誰かに私はときどき心の底から感謝をしたくなる。
そのどこかの誰かがつけてくれたこの感情の名前があるから、私は今幸せだとこんな不確かであいまいなものを噛み締めることができるのだから。
だけどこんなとき、私が最も感謝すべき相手は顔も名前もそれどころか存在も知らない名付け親なんかじゃなくて。
私にそんな名前のこのたいそう満たされるものを与えてくれるすぐそばにいる雅紀その人に違いないのだ。
だけどそれはとても照れくさいもので。
私はなかなかそれを言葉として形作ることができない。
ゆらゆらと手元のマグカップを揺らす。
中で揺れるホットチョコレートは底が見えない。
私の雅紀への想いもこれに似て甘くてちょっとどろどろしてて少しだけ濁ってて底の見えないようなものなのかもしれない。
あるいはこの甘い甘いホットチョコレートを飲んでいる今なら、そんな甘い気持ちも恥ずかしがらずに口に出せるかもしれないなんて、私もまだ甘い温度が抜けきっていないようだ。
「雅紀」
「ん？」
「ありがと」
「……っ、うん」
雅紀は泣き虫さんだということを私は知っている。
その丸い目にうっすらと光る何かをためた雅紀はもう一度「うん」と頷いただけだった。
だけどすぐにホットチョコレートを一口飲んで、ちろりと唇をなめてから口を開く。
「俺も…ありがとう、A」
今度は私が「うん」とただ頷く番だった。
ホットチョコレートのおかげで温まったからか少しだけ瞼が重くなる。
向かいに座った雅紀が少し首をかしげて私の顔をのぞき込む。
「A、ねむい？」
「……ねむくない」
ふるふると首を振る。
ちょっと困った顔をしてる雅紀にもう一度ねむくないよと告げる。
マグカップを持ち直してまた一口。
「ねぇまさき、あした何時にでよっか」
深夜二時、ほっとちょこれーとはまだその温もりを失わない。
(深夜二時、ほっとちょこれーと)
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月14日 18時
