深夜二時、ほっとちょこれーと【A】 ページ28
.
冷えた空気に不意に意識が浮上した。
重たい瞼を何とか持ち上げるとぼんやりした視界には肌色の何かが広がっていた。
身体の下敷きになっていた左腕がしびれているのが何となくわかってきたのは脳が覚醒してきているということなのだろう。
何かに引っ張られるように落ちていく瞼をもう一度おろす。
あまりにも静かな夜の中で私は音を立てないようにひっそりと呼吸をした。
すっかり冷えた空気が肺に入り込む。
中から冷えるような気もしたけれど、すぐそばで彼の生きている音が聞こえて私はなんだか妙にぼんやりとした心地に包まれて目の前の肌色にすり寄った。
生きている彼の身体は冷え切った部屋の中で唯一温かい。
私の温度にシンクロするように彼の肌色の胸の奥で鼓動するいのちのそれがどくりと音を立てた気がした。
「……ん、A…」
もともとハスキーな彼の声は寝起きにはより色気を増してかすれて音になる。
かすかに呼ばれた名前にまたぼんやりとした心地になって私はもぞもぞと彼の胸に埋めていた顔を動かした。
首をそらして見上げれば彼は私の頭を乗せているのと反対の腕を持ち上げて眠そうに眼をこすっている。
「ねれない…？」
「ううん、さっき目が覚めちゃったところ」
「……そ…か…」
彼はまだ眠そうだ。
寝てていいよと一言いえば、彼がもぞりと身体を動かして私の身体を引き寄せる。
髪を滑る指が意外と骨ばっていて男らしいことは私だけの秘密だ。
「さむくない？」
「少しだけ」
「じゃあ、もっとくっつく」
舌足らずに告げながらさらに抱きしめられて彼の温度とくっつく。
まどろみと夜の甘さの残り香の中で私は一つ息を吸い込んだ。
「A、明日休み…？」
「たぶんもう今日だと思うけど、休みだよ、土曜日だもん」
「そっか…そうだよね。じゃあ、まだいいよね…」
いいよねなんて最初から彼の答えは決まっているんだろうに。
腕枕になっていた腕に頭を抱え込まれてそのままぐるりと彼が身体を回す。
暗闇に目が慣れてきた視界に彼の夜の顔が映った。
「……雅紀、ほんとはもう起きてるでしょ？」
「うん、起きてる。というか起きてた。Aの寝顔見てた」
「…もう」
「いーじゃん」
大した文句も言えない口はあさっりと彼のそれでふさがれる。
たぶん朝はまだ、遠い地平線の向こうだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 215人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月14日 18時
