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とろりとわずかに冷たいウイスキーが溶けた殻の中からあふれ出す。
「ふ…は…っ……んん」
口の端から飲み込み切れなかった液体が伝うのがわかったころ、ようやく唇が解放される。
肩で息をしながら呼吸を整える。
いくら息を吸っても大人の洋酒の香りが抜けた。
「美味かったろ？」
ニヤリと笑いながら私の目をのぞき込む大野さんは確かに男の人の目をしていた。
「いきなりなんてひどいじゃないですか」
「もったいぶったお返しだ」
もったいぶったつもりなんてない。
手を伸ばしてテーブルの端にまで転がった煙草を拾い上げる指を目で追う。
灰皿の中にそれを落とすとそのきれいな指でまた一つウイスキーボンボンをつまみあげた。
「もう一個食べるか？」
「………食べます」
「ふふ」
笑う大野さんは意地悪な顔をしている。
それでもこの顔が、私はたまらなく好きだ。
テーブルについた手を大野さんの私よりも大きな手が滑る。
口の端を強引に拭うと、そのきれいな指でウイスキーボンボンを私の唇に押し当てた。
「口開けて」
「……」
かすかに開けば強引に入り込んでくる。
きゅうと大野さんが口角を上げた。
「ほら、おいで」
「……っ」
泣きたくなるのは冬の夜風が冷たすぎるせいだろうか。
すぐそばで待っている大野さんに、あきらめて自分から口づける。
すぐに主導権は奪われてまた好き勝手に生き物のような体温が私の舌ごとチョコレートを溶かし始めた。
唇が重なる寸前に遠いこの都市のシンボルが一瞬で闇に溶けるのが見えた。
あれを恋人と一緒に見ると永遠に一緒にいられるみたいなジンクスがなかっただろうか。
もっとも大野さんは背を向けていたしそもそも私たちは恋人同士などという綺麗なものではないけれど。
今の私たちには関係のない話かもしれない。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月14日 18時
