chocolateのゆくえ《ars》 (ページ15)

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バレンタインデーなんてそもそもお菓子会社の販売戦略だろなどと興味ないふりしてうそぶきながら内心では朝からソワソワするというのは男子特有の誰にでも起こる症状である。

社内でも今朝から義理チョコを配り歩く女性社員と義理でももらって喜ぶ男性社員とが入り混じりいたって平凡な二月十四日の様相を呈していた。

その義理チョコすら一つ一つを丁寧に断った俺の鞄にはあいつが初めてガトーショコラなんかを焼いた遠いバレンタインのその日から一度だってほかのチョコが入っていたことはない。

それがどういうことなのかをあいつはいまだに知らないんだろうと想像すると普段はうれしいはずの定時での帰宅の足も重くなるというものだ。

やっぱり何も告げずに一度引っ越してやろうか。

差し込んだカギは手ごたえのないままカシャリと軽い音を立てて回った。

鍵が開いていることに気づいて重たい扉を開く。

リビングから漏れる薄い明りとマンションの廊下に点いた薄暗い明りに照らされた小さな玄関には俺の靴とは似ても似つかない可愛らしい白いブーツが一足堂々とど真ん中に揃えた状態で置かれていた。

「ただいまー」

一応声をかけるけど返事は帰ってこない。

まぁ最初から、あいつはたぶん俺におかえりを言うために上がり込んだわけではないだろうから別にいいんだけど。

「ただいま」

「あ、和にいおかえりー」

リビングの扉を開ければ途端に甘い香りが全身を包み込んだ。

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