運命なんて信じない８ (ページ35)

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(Sakuma side)

彼女の願いが俺の心に響いてくる。
彼女が好きだと言ってくれた俺の笑顔。
それなら俺は笑顔になろう。

桃「うん、分かったよ。笑顔になるから。だから舞香ちゃんも泣かないで。」

彼女の頬には一筋の涙が流れていた。
思わず頬に手をあて、涙を拭う。

初めて触れた彼女の頬。
ずっと触れたかったんだ。

桃「抱きしめてもいいかな？俺の最初で最後のお願いなんだ。」

彼女は優しく微笑んで、コクリと頷いた。

俺はその言葉どおり
最初で最後のハグをした。

俺の腕の中に彼女がいる。
ずっと夢に見てきた。
腕の中の彼女は華奢で儚くて消えてしまいそうだった。

彼女の腕が俺の背中に回り

「ありがとう。」

そう囁いた。

桃「俺の方こそ、ありがとう。」

俺は彼女の思いを受け止めた。
彼女が願うなら、俺は二人の支えになる。

桃「ずっとありがとう。だから、身体大事にして。」

「私こそありがとう。さっくんも気をつけてね。」

彼女は今まで見てきた中で一番優しい笑顔で言った。
俺も思いきりの笑顔で

桃「さくまさんは大丈夫！じゃ、またね。」

そう言って、病室を出た。
振り返って彼女をもう一度、抱きしめたかった。
でも俺は振り返らなかった。
彼女との約束を守るために。

ロビーまで、どうやって歩いたのか分からない。
ふっかの姿を見つけた瞬間
体中の力が抜けて崩れ落ちた。

紫「佐久間！」

ふっかに抱えられ、ソファに腰掛ける。
涙がとめどなく溢れてきた。

紫「佐久間、しっかりしてよ。」

桃「ふっか、ごめん…俺…」

紫「何も言わなくていいよ。言わなくていいんだ。」

桃「俺…ずっと…」

紫「…うん、舞香ちゃんに頼まれてさ。舞香ちゃん佐久間のこと、本当に信頼してるから。だから会わせることにしたんだ。」

桃「……うん、連れてきてくれてありがとう。」

紫「俺らには何も出来ない。祈ることしか出来ないけどさ。きっと治るって信じよ？」

桃「ああ、そうだよ。治るんだって。」

俺は祈ることしか出来ない。
だから君が大好きな笑顔を忘れずに
君を想い、願うよ。

たった一度の最初で最後のハグ。
桜色の鎖を外してくれた。

大好きだったよ。
笑顔で君に向かって呼びかけた。