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「A？ちょっと散歩に出掛けようか？」
出張というか…
流派一門が集まるパーティーとなる会場があるホテルに着いてチェックイン後、荷物を置き一息つく間も無く翔さんがそう言って。
「え？でも…。」
着物を着ないとならないし、ヘアメイクの準備もある。
「大丈夫。パーティーは明日だから。」
にっこり笑って平然と言った翔さん。
「え？」
想定外の事に驚き、戸惑う私をクスリと口元だけで笑って左手を差し出した。
「だからちょっとこの辺りを散歩しよう？」
「…うん。」
差し出された手を取ると、満足そうに笑って頷いた翔さんと部屋を出た。
パーティーが行われるホテルはさすがと言うべき老舗の由緒あるホテルで海沿いに立てられているから、ホテルの至る所で海を見渡せる。
だけどホテルを一歩出ると、裏手は山で潮風を感じながら森林浴もできるといった都会にはない贅沢なお散歩。
「今日は兄貴は大丈夫だろうな？」
全身で自然を感じてる贅沢な時間に、気分を害す事を持ち出さないで欲しい…。
「多分…もう諦めたと…。」
あの外泊した日…
家に帰るとどこから持って来たのか手錠を手に、見た事もないくらい怖い顔した和くんが玄関で仁王立ちしていて…
和くんの部屋に手錠をかけて閉じ込めるだとか、できるはずもないのにいっそのこと和くんと結婚するか？とか言い出して…。
とにかく大変だった。
最終的には智くんと彼女である山岸さんがなんとか宥めてくれて、上手く誤魔化しつつ翔さんのお仕事の都合がいい日はお泊りするようになった。
昨日、和くんは仕事が早く終わったのか、無理に早く終えたのかわからないけど、珍しく私が寝る前に部屋に来て…
『和くんはずっとずっとAの味方。和くん以上にAを愛してるヤツはいないって事だけ覚えといて。』
そう言って私を痛いくらいにギュッて抱きしめた。
あれが和くんなりの私を翔さんのお嫁さんとして送り出す言葉だったんだろう。
「やっとか…ってあの兄貴じゃ安心はできねぇし、死ぬまでお前を溺愛しそうだ。」
心底嫌そうに顔を歪めてる。
「山岸さんと早く結婚すればいいのにね。」
「アイツが家庭に納まるタマか？色々と普通じゃねぇし。」
「和くんって山岸さんの事…本当に大好きなんだよ？和くん天邪鬼で捻くれてるからわかりずらいかもしれないけど。」
和くんって本当は愛に溢れた優しい人なんだよ？
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 19時
