１１０ 〜S〜 ページ30
マンションのエントランスに横付けされた車のドアが開き車外に出た。
「若。私、所用がありますので今日はこちらで失礼してもよろしいでしょうか？」
「あぁ。用事って…女か？」
ニヤリと揶揄うように笑って言うと、
「はい。それはもう極上の美女です。私は間違っても女性に振り回される事はないですが。」
涼しい顔でそう言った。
「あ？てめぇまだ言うか？」
「いや…私を振り回す方がすでにいらっしゃるので女性にまで振り回されてたら、さすがの私でも身体がもちませんってお話です。」
「潤！お前、最近マジで『失礼します』」
潤が運転する車のテールランプを唖然と見送りながら、飼い犬に噛まれた気分で地面を蹴る。
ホント…マジで最近、アイツはやたら説教じみてて偉そうだ。
エントランスの自動ドアを抜け、挨拶をするコンシェルジュを横目にエレベーターにキーを翳しセキュリティを解除する
。
エレベーターの中のボタンもセキュリティにより制御されていて、それをも解除して自分の住む部屋の階数を押した。
エレベーター特有の浮遊感を感じた、ほんの数秒後に止まったエレベーターは自動的にドアが開く。
エレベーターから自分の部屋のある方向に一歩踏み出すと、玄関ドアの前に人影があって。
セキュリティも万全なこのマンションで誰だ？
この階の住人か…？
草履のペタペタとした音が廊下に響き、その音で俺に気づいたドアの前の人物がこちらを向く。
「…え…？A…？」
なんでここにAが…？
執事もいるのか？
キョロキョロと周りを見渡すけど執事の姿は見えず。
Aの前に立つと、
「…翔さん…。」
ポツリと呼ばれた名前がシンとする廊下に響く。
「ど、どうしたんだ？」
予想外の出来事に咄嗟に判断するという事が不得手な俺の頭は真っ白。
「…お話をしに来ました。」
意志のある真っ直ぐな目で俺を見てしっかりとした口調でそう言った。
「鍵持ってんなら中で待ってればいいだろう？何かあったらどうする。」
あたふたしながら玄関の鍵を開けて。
「いえ…翔さんの許可なく入るなんてできません。それでなくてもここに来る事を翔さんは快く思っていないのに…。」
「そんな…なんでそういう…。」
俺との間に壁があるような事を言うんだよ。
「とりあえず入れ。」
を開けてAを先に中に入れ、その後から俺も入って鍵を閉めて玄関を上がる。
来客用のスリッパを出し自分の後について来いと促した。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 19時
