１０１ 〜S〜 ページ21
仕事を終えた後、また二宮家に戻ろうと、その意向を潤にそれを告げる前に…
「若。家元がお呼びです。」
潤の表情と緊張感で全てを察した。
「…わかった。」
静かに返事をして車に乗り込んだ。
いつも車内では世間話や、潤から小言を言われたりするけど今日は一言もお互い発さずに本家までやってきた。
玄関では毎度の事ながら松本が待ち構えていた。
「若様。お帰りなさいませ。」
「あぁ。」
草履を脱ぎ玄関を上がると、潤が草履を揃えてから俺の後につく。
「ふふふ。」
「あ？松本？何がおかしい？」
「若様でもそんなに緊張なさる事があるんですね。」
ガキの頃からずっと俺を見てきた松本には表情ひとつで全てがわかるらしい。
「俺だって人間だぞ？緊張くらいするわ。」
「二宮社長にお会いする時はもっと緊張なさると思いますよ？」
プレッシャーかけやがって…。
でも…
「あの兄貴以上な気がしねぇから、多分そこまでじゃねぇよ。」
そもそも両家の親の間で決めた見合いだし、反対はされないだろう。
親よりもうちの一族よりも厄介なのはあの超絶シスコンのバカ兄貴だろう。
アイツの事だから旅行先のホテルまで調べて邪魔しそうだ。
でもまぁ…
味方の秘書が上手くやってくれるだろう。
あの秘書は兄貴とはまた違った意味で頭が切れるし、周りをよく見てるから、その瞬間にベストな状況判断をする。
執事は…
バカなんだか利口なんだかよくわからない。
だけど結局、Aはそれなりにいい男に囲まれてるって事で
その上、この俺が旦那になるんだしな…うん。
「旦那様。若様をお連れしました。」
「入れ。」
廊下に膝をついた松本が障子の襖を開けて、その空間から座敷に踏み入れた。
上座に偉そうに座ってる親父の真正面にある座布団まで、畳の縁を踏まないように摺り足で歩き正座で座った。
「松本から二宮家のお嬢様との縁談がまとまったと伝え聞いた。」
「縁談が…と言うか…まぁ…そうだな。結婚を前提に付き合ってる。」
「そうか…。」
珍しく表情を緩めて、嬉しそうに目を細めた。
「とても気立てのよい、美しいお嬢さんらしいじゃないか。」
「あぁ。」
「結納と式の日取りは私と二宮社長で取り決めるからな。」
「それは別にいいけど…。」
「けど？」
「もう少し恋人という立場で隣にいてやりたいし、入籍日は二人で決めたい。」
そう言った俺を少しだけ目を見開いて見た親父だったけど、満足そうに頷き微笑んだ。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 19時
