The Crow's Dream 4 (ページ9)

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用無しページ9

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手間のかかる子ほど可愛いとは、よく言うものだ。
確かに弟は、両親の中で大切な宝物だったから。
震える手で自身の名前を記入すると、静かにボールペンを置く。

【お母さん、私ピアノを辞めたい。】

意を決して打ち明けたその時。
馬鹿な私はまだ信じていた。母親が私の気持ちを分かってくれると。

もうあの黒のドレスを着てどこにも出たくないし、メディアへの露出も嫌なのだ。
街を歩けば奇異な視線、隠し撮りされることにも慣れてしまい、「クロウ」で検索をかけると嫉妬交じりの悪口が大量に出てくる。
乾いた瞳でそれらを見つめる私の心も、いつの間にか麻痺してしまった。

悪口を言われるのも慣れている。
私の音を侮辱されるのも、傷つくがこの際どうだっていい。
自分の音は自分にだけ分かればいいと、慰めることが出来るから。
だけど、自分が大好きで大事にしていたピアノがだんだん色あせてきて、楽しくも無くなっている事に、
私は危機感を覚えたのだ。

【ごめんなさい、ハルトの入院費や手術代は、私が夜働いてでも稼ぐから…！私の高校も、もう行かなくていいから、だから！】

縋る私に、母親はなんと言ったのか。
呆然としていて未だに覚えていないが、気づけば母親から渡されたその緑色のカードに必要事項を記入していた。

1. 脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも、移植のために臓器を提供します。
2. 私は、心臓が停止した死後に限り、移植のために臓器を提供します。
3. 私は臓器を提供しません。

口に出して読み上げる。
…どうでもいい。
結局私が死んだ際にこの体から心臓が抜き取られるのには代わりないんだから。

「1、っと。」

丸をつける。

「脳死後及び、心臓が停止した死後か…。」

心臓が停止すれば、脳が死んでなくても提供できるんだ。
そもそも、心拍停止しても意識を吹き返すことなんかあるのかな。

もし、心臓が少しでも止まれば。
私の臓器は誰かのものになる。

そうなると、誰も私の心拍を再開させようとはしない訳だ。
なんだか悲しくて面白くて、緑色のカードを裏返す。
臓器提供意思表示カード。
緑色にそう書かれた文字を追いながら、
「お金が稼げなきゃ私は用無しか」
と呟いた。