クラブ ページ40
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「チシヤ？」
ずんずんと歩いていく彼は、独房の前に来るとピタリと止まった。
向かい側の部屋の壁に飛び散った赤色が目に入って思わず顔を伏せる。
私の顎を掬って視線を合わせた彼は、スっと瞳の色を無くして私に言った。
「このターンの回答、クラブって言って」
「…え？」
あと5分。
わらわらと人が集まってきて、話をしている私たちを物珍しげに見ていた。
網が貼られた床の下から他のプレイヤーが独房の前で待機しているのが見える。
時間が無い。
「…クラブ。」
「待って、彼女たちはハートって…」
「嘘だから。」
嘘。
嘘、つかれたの？私
救ってあげる、ウルミが楽しむように言った声が蘇る。
「聞いてる？」
猫目がこちらを射抜く。
声が聞こえてそちらを向くと、下から登ってきたウルミ達の姿が見えた。
「…うん。」
「A、とにかく」
「分かったよ。」
尚も言い募ろうとするチシヤを止めて、覚悟の決めた顔で彼を見た。
息を飲んだ彼に微笑みかけ、大丈夫だよ。と言葉じゃなくても伝わるように目を細める。
「ビーチから、私は決めてるの。」
それでは、お好きな独房にひとりずつお入りください。
8回目のアナウンス、もう諳んじて言えるくらい聞いてきた声だ。
各々が独房を開ける音がする。
チシヤの顔は少しだけ戸惑いが見られて、余裕綽々でいつも飄々としている彼の心の動きに何だかおかしくなって笑いを零した。
「チシヤを信じる、って。」
彼の返答を待たずして自分の独房を開ける。
同時に右手で少しだけ首輪を触ると、無機質な冷たさが指を伝って来た。
……乗り切らないと。
ふぅ、とため息を付く。
きっと区切りのターンになる。心持ちを固くしないと。
そう思いながら1歩目を踏み出した時。
優しく後ろから何かに抱きしめられて目を見開いた。
「…チシ、」
「参ったなぁ。」
暖かい彼の匂いが私を安心させる。
感情を押しつぶすような声が聞こえたと同時に、数秒経って体が離された。
「また、後でね。」
「…うん。また後で」
キィ、と音を立てて扉が締まる。
その瞬間施錠音がした。
「それでは お答えください。」
カウントダウンが進んでいく。
ハートよ、と微笑んだウルミの顔とそれに便乗した仲間の声が蘇ってきて、わたしはクスリと微笑んだ。
……私がここでくたばると思っている彼女たちは、どんな顔をするだろう。
「クラブ。」
0になる。
どこかで爆発音がして、続けざまに響いた解錠音にゆっくりと目を開いた。
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作者名：みりん | 作成日時：2023年3月13日 23時
