今は ページ3
・
「車に隠れよう！」
男の声が上がり、数人がビーチで調達した車の中に入り込む。
「待って、そこは…！」
「よせ」
駆け寄ろうとした私の体を強く引き止めたチシヤ。
その瞬間弾丸が目の前を通過していき、車の中に弾の雨が降り注ぐ。
フロントガラス一面に飛び散った血。
きっと彼らは絶命しただろう。
思わず唇を噛みしめる。
「だから…車に隠れても無駄だよ」
無慈悲なチシヤ。
どこか馬鹿にするような声音に安心してしまうのは何故だろう。
目の前で撃たれ続ける人達。
走れ、走れ！
クリアになった視界で全方向に注意を向けながら彼らについて行く。
渋谷駅の地下鉄入口に身を隠すと、ようやく一息ついた。
これゲーム始まったん？
切羽詰まったクイナの声に「分かんねぇ」と砕けた口調で返すチシヤ。
私を助けるために彼に握られた右腕は、命綱だ。
盲目に人を助けようとする、馬鹿な私の。
話し合うクイナ達の声をBGMに、私は強く唇を噛み締める。
目の前で人が死ぬのは、自分が死んでしまうよりももっと嫌いだ。
助けられなかった自己嫌悪に陥るから。
ダメだ。前を向こうと決めたのに、負のループに入りそう。
さっさと次に進めない、引きずってしまう自分がこういう時嫌で嫌で仕方ない。
「…A」
黒いモヤに体を引き込まれそうな、そんな感覚がしていた時。
ふと、手を掴んで引っ張り上げてくれたのはチシヤの優しい声だった。
「…チシヤ」
「大丈夫。」
彼と見つめあっていると、バラバラバラ！と銃声の音色が変わる。
「なんかまた聞いたことある音してきたな」
「二ラギが使ってたライフルだね…。アサルトライフル。」
舌なめずりをする二ラギの顔が思い浮かんで消えていった。
掴まれていた右手が離され、私を前に引っ張る。
後ろから感じるチシヤの気配に妙に安心していると、銃弾の音が近づいてきた。
「行くしかねえ！」
アリスが飛び出す。
障害物の影に時々身を潜めながら、丸腰で逃げ惑う人々が殺されるのを目の前で見ている。
少しでも行動を間違えたら、あぁなるのは自分だ。
「A」
喧騒の中、後ろにいるチシヤがボソリと話かけてくる。
「今は、自分の事だけ考えて。」
お願いの様な口調に目を見開き、喝を入れるために頬を叩く。
ボーシヤもアグニも、ここで死んでいってしまうプレイヤーも。
残酷なそのお願いは、私を守る為のものだと知っているから。
顔を合わせずに頷けば、同時にアリスが走り出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 224人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みりん | 作成日時：2023年3月13日 23時
