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薬を飲ませて、彼女を横たえて。
『なぎ…』
「なぁに」
『ありがと』
「どういたしまして」
『なぎ』
「はぁい」
『…もう、帰っちゃう?』
熱のせいで相変わらず目を潤ませて頬を赤らめている彼女がTシャツの袖を掴むから、破壊力は抜群で。
「ここに居て欲しい?」
『ん…けども、今日のおねがい、つかっちゃった』
なんて泣きそうな顔をして。
こんな時にも一生のお願いは一日一回という彼女の中のルールだけは守ろうとする律儀さに思わず力が抜ける。
「いいよ、今日は特別」
『うん…?』
「熱が下がるまで、何回でもお願い聞いてあげる」
『ほんと…?』
「本当」
『じゃ、一緒にいてほし…』
「うん、分かったよ」
『さむい、ぎゅ、てしてて…』
「何それ、可愛すぎでしょ」
『なぎ…』
「なぁに」
『なぎがいて、よかったよぅ…』
いつもはニコニコしながら言うセリフを、今日はポロポロ涙を流しながら言う彼女に胸がキュッと締め付けられる。
たまらなく可愛いけれど、やっぱり彼女のいつもの笑顔が一番好きだなぁと思う。
「Aのお願いなら何だって、何個だって叶えてあげるから」
『ん…』
「だから、早く元気になってね」
彼女の布団に一緒に入り、いつもより体温の高い彼女を抱きしめていればこっちまで眠くなってしまって。
そのまま俺も意識を手放した。
『…凪、』
「ん…あ、目覚めた?」
『うん』
「体調どう?」
『だいぶスッキリした』
「そりゃ良かった」
そう言った彼女は何だか照れ臭そうな顔をしていて。
『ごめんね、熱出て、寂しくなっちゃった…』
「そんな感じだったね。いつもより甘えんぼだった」
『…嫌だった?』
「全然。ちょー可愛かった」
『…そっか』
まだ少し熱い頬を撫でてそう答えれば、恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋める彼女。
「…けど、どんなAも好きだけど、やっぱりいつもの元気なAが一番可愛いや」
『…ん』
「だから俺のためにも早く元気になってね」
そう呟いて再び冷却シート越しにキスを落とせば、彼女の顔が真っ赤に染まる。
「ごめん、可愛すぎて我慢できなかった」
『…もうだめ』
「んえー」
『……また今度ね』
「……は?」
『…もうちょっと寝る。おやすみ』
「え、ちょっと待ってよ、コラ」
『もう寝てます…』
そう言って布団に潜り込んでしまった彼女に、表情筋がこれでもかと言うくらい緩んだ。
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chiito(プロフ) - ねう。さん» もしいい感じの話が思い浮かんで書けたら、またお付き合いい頂けると嬉しいです♡本当にありがとうございました!! (2023年7月30日 16時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
chiito(プロフ) - ねう。さん» ねう。さん、勿体ないくらいのとっても嬉しいコメントありがとうございます!!凪にお前って呼ばれたい人生でした。。笑 そうなんです、玲王のお話も書けたらなぁと思いながら書いてたんです! (2023年7月30日 16時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
ねう。(プロフ) - 一気読みさせていただきました。とても面白かったです…終始涙が止まらず、胸が苦しくて笑 冒頭から終わり方まですごく綺麗で、凄く素敵な作品だなと思いました。ごく稀にお前って呼ぶスタイルすごく刺さりました。アナザーストーリー的なで玲王の恋路も気になります笑 (2023年7月29日 10時) (レス) @page46 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
chiito(プロフ) - まぴさん» まぴさん、嬉しいコメントありがとうございます!!更新がんばりますので、これからもよろしくお願いします〜(^^) (2023年7月17日 12時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
まぴ - いつも楽しく小説見させてもらってます✨凪くん大好きなので嬉しいです!これからも応援してます! (2023年7月16日 23時) (レス) id: 860b8d9e21 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:chiito | 作成日時:2023年7月16日 10時