大好きだから踏み出せない ページ4
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『ナギえもん、コイツに勝てる道具出してよ〜』
「A太くん、僕は喉が乾いたよ」
『えぇ、何飲みたいの』
「レモンティー買って来て」
『しょうがないなぁ、じゃあコンビニ行こ?」
相変わらず距離感がバグっている彼女の細くて柔い腕がスルリと俺の腕に絡まる。
それだけで俺の鼓動は速くなるけれど、彼女はそれを知らない。
「…買って来てって言ったんですけどー」
『いいでしょー?一人で行くの寂しいもん』
「しょうがないなぁ」
『ふはっ、それ真似っこ?』
「そ、真似っこ」
似てなーい、なんてケラケラと笑いながら歩く彼女の歩幅はとても小さい。
彼女の一歩は、たぶん俺の半歩くらい。
それでも彼女の歩幅に合わせた方が、こうして二人で歩く時間は長くなる。
そんな理由で俺がいつも彼女の歩幅に合わせて歩いていることを彼女は知らない。
『あ、これ美味しそう』
「またグミー?」
『そんなこと言って、どうせ凪も食べるんでしょー』
「んー、Aが食べさせてくれるなら」
『もう、どこまでめんどくさがりなの?』
困ったように笑う彼女の言う通り、たしかに俺はめんどくさがりだ。
けれど本当にただのめんどくさがりなら、わざわざコンビニまで来ていない。
なぜなら俺の肩にかかっているバッグの中には、ミネラルウォーターの入ったペットボトルがあるから。
本当に喉が乾いているだけなら、それを飲めば済む話だ。
『よーし。レモンティーもゲットしたし約束通り手伝ってよね!』
「あー、あのゴミクエ?」
『…私よりちょっと強いからって』
「Aと比べたらちょっとどころじゃないでしょ」
『腹立つ〜!!』
隣でぷりぷりと怒っている彼女に、思わず頬が緩みそうになる。
わざわざレモンティーを頼んだのにも、ちゃんと理由はある。
寂しがり屋な彼女なら、こうして俺の手を引いてコンビニへ向かうことを分かっていたから。
『え、鞄の中に水あるじゃん!』
「うん」
『もう、喉乾いたならそれ飲めばよかったのに』
めんどくさがりな俺があえてこんなめんどくさいことをするのにも理由はある。
彼女との時間を、より多く長く欲しかったから。
彼女との時間をより多く長く欲するのは、
「…好きだから」
『どんだけ好きなの、レモンティー』
「…さぁ」
やっぱり今日も本音はあえて口に出さない。
まだその時じゃないと思うから。
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chiito(プロフ) - ねう。さん» もしいい感じの話が思い浮かんで書けたら、またお付き合いい頂けると嬉しいです♡本当にありがとうございました!! (2023年7月30日 16時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
chiito(プロフ) - ねう。さん» ねう。さん、勿体ないくらいのとっても嬉しいコメントありがとうございます!!凪にお前って呼ばれたい人生でした。。笑 そうなんです、玲王のお話も書けたらなぁと思いながら書いてたんです! (2023年7月30日 16時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
ねう。(プロフ) - 一気読みさせていただきました。とても面白かったです…終始涙が止まらず、胸が苦しくて笑 冒頭から終わり方まですごく綺麗で、凄く素敵な作品だなと思いました。ごく稀にお前って呼ぶスタイルすごく刺さりました。アナザーストーリー的なで玲王の恋路も気になります笑 (2023年7月29日 10時) (レス) @page46 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
chiito(プロフ) - まぴさん» まぴさん、嬉しいコメントありがとうございます!!更新がんばりますので、これからもよろしくお願いします〜(^^) (2023年7月17日 12時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
まぴ - いつも楽しく小説見させてもらってます✨凪くん大好きなので嬉しいです!これからも応援してます! (2023年7月16日 23時) (レス) id: 860b8d9e21 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:chiito | 作成日時:2023年7月16日 10時