ありきたりな言葉しか知らないけれど ページ30
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あれから学期末のテストを終えて、夏休みが始まった。
『何このホテル…』
「スゲー…」
『本当にここにタダで泊まれるの…?』
「らしいよ」
今日はAと二人で約束していたプール付き高級リゾートホテルに来ていた。
俺を合コンに付き合わせて話をややこしくしたお詫びだからと、玲王がすべて手配してくれたのだ。
『こんなの絶対おかしいよ、玲王くんって一体何者なの…?』
「御影コーポの御曹司」
『…え、そうだったの!?』
「知らなかったの?」
『そういえば苗字が御影じゃん!!』
「学内でも有名だと思うけど」
『えー、全然知らなかった…』
一人で驚き倒して衝撃を受けている彼女。
それでも彼女のことだから玲王と会えばいつもと変わらない、分け隔てない態度で接するのだろう。
たぶん玲王は彼女のそんなところを気に入っているんだと思う。
『凪ぃ〜助けてぇ〜』
「何してんの」
『浮き輪、凪と一緒に使いたくて大きいの買って来たのに空気入れ持って来るの忘れた〜』
「…バカじゃん」
『ずっと頑張ってるのに全然膨らまない〜』
ホテルにチェックインして部屋の中を二人で探索して。
急に静かになったかと思えば、一生懸命に頬を膨らまして浮き輪に空気を入れようとしていて。
かと思えば上手く膨らませられないと言ってめそめそと落ち込んで。
そんな間抜けなところも可愛いなぁなんて思いながらフロントに電話を入れた。
「今から持って来てくれるって、空気入れ」
『本当!?ありがと凪、酸欠で死ぬところだった』
「そう思うなら何で諦めないの?」
『だって私には凪が居るし…どうにかなるかなぁと思って』
屈託のない笑顔でそんなことを言われてしまえば憎めなくて、やっぱり何でもしてあげたくなってしまう。
「…本当さぁ、」
『ん?』
「Aってズルい…」
『え、何が?…わ、』
「…スゲー好き」
『あ…ありがとう?』
たまらなく愛おしくなって抱き締めれば、彼女は大人しくされるがままになっていて。
アピールのために誘った旅行も、結局もっと彼女を好きになってしまうばかりで。
「ほい。出来たよ、浮き輪」
『わぁ、ありがと!凪も一緒に使おうね』
「ん」
『ね、早く行こ!』
「はいはい」
本来の自分ならフロントに電話を入れることも厭うし、浮き輪なんてどうでもいいと一蹴するはずなのに。
彼女と一緒に居ると、本来の俺は実はめんどくさがりな性格ではないんじゃないかと錯覚してしまう程だった。
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chiito(プロフ) - ねう。さん» もしいい感じの話が思い浮かんで書けたら、またお付き合いい頂けると嬉しいです♡本当にありがとうございました!! (2023年7月30日 16時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
chiito(プロフ) - ねう。さん» ねう。さん、勿体ないくらいのとっても嬉しいコメントありがとうございます!!凪にお前って呼ばれたい人生でした。。笑 そうなんです、玲王のお話も書けたらなぁと思いながら書いてたんです! (2023年7月30日 16時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
ねう。(プロフ) - 一気読みさせていただきました。とても面白かったです…終始涙が止まらず、胸が苦しくて笑 冒頭から終わり方まですごく綺麗で、凄く素敵な作品だなと思いました。ごく稀にお前って呼ぶスタイルすごく刺さりました。アナザーストーリー的なで玲王の恋路も気になります笑 (2023年7月29日 10時) (レス) @page46 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
chiito(プロフ) - まぴさん» まぴさん、嬉しいコメントありがとうございます!!更新がんばりますので、これからもよろしくお願いします〜(^^) (2023年7月17日 12時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
まぴ - いつも楽しく小説見させてもらってます✨凪くん大好きなので嬉しいです!これからも応援してます! (2023年7月16日 23時) (レス) id: 860b8d9e21 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:chiito | 作成日時:2023年7月16日 10時