この胸のざわめきを ページ1
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ぱちん、と小さな両手を顔の前で合わせて拝むようにこちらに頭を下げる仕草。
もう何度目かも分からない、見慣れてしまったこの光景。
『ねぇ助けてナギえもん』
「…はぁ、今日は何」
どこぞののび太みたいな、情けない声。
これから俺は、もう何度目になるかも分からない彼女の"一生のお願い"を今日も聞くことになるのだろう。
『このクエ、何回やっても勝てないの〜』
「んえー、何でそんなザコ相手に負けるの?勝てない理由が分かんない」
『喧嘩売ってんのか?』
唇をツンと尖らせて、こちらを睨みつけているつもりであろう彼女。
そんな仕草もこの身長差のせいでただの上目遣いになってしまっている。
それを見て今日も可愛いなぁ、なんて思うけどあえて口には出さない。
『ねーえ、助けてよ凪ぃ』
「えー、今このゲームの気分じゃなーい」
『お願いだよぅ。このままじゃ私、一生コイツと戦ってなきゃいけなくなっちゃう…』
「それもそれでいいんじゃない?」
『よくない!そんなの楽しくない!』
「知らんし…」
『この通り!一生のお願い〜!』
駄々を捏ねるみたいに足をパタパタさせる彼女を見て、ほらやっぱり、なんて思う。
そしてどうせ最初から断る気もないくせに、自分も毎日よく飽きないよなぁ、とも思う。
「Aの一生のお願いってあと何回あんの」
『…それは分かんないけど』
「分からんのかい」
『でもこのままじゃ進めないし…。いいじゃん、親友からのお願いじゃん』
「俺Aのこと親友だと思ったことないんだけど」
『えっ、じゃあ何?心の友、みたいな?』
「ジャイアン並みにポジティブだよね」
『そんなことないよ、今こうしてコイツに勝てなくてずっと悩んでるし』
「だとしたら悩みがしょーもなさすぎでしょ」
えーん、なんて泣き真似をする彼女は、こうしてほぼ毎日のように一生のお願いを使ってくる。
ゲームのことだったり、勉強のことだったり、それ以外のことも、とにかく何にでも。
その度に俺は律儀にその"一生のお願い"とやらを叶えて来た。
彼女がこのまま一生、俺なしでは生きていけなくなればいいのに、なんて思いながら。
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chiito(プロフ) - ねう。さん» もしいい感じの話が思い浮かんで書けたら、またお付き合いい頂けると嬉しいです♡本当にありがとうございました!! (2023年7月30日 16時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
chiito(プロフ) - ねう。さん» ねう。さん、勿体ないくらいのとっても嬉しいコメントありがとうございます!!凪にお前って呼ばれたい人生でした。。笑 そうなんです、玲王のお話も書けたらなぁと思いながら書いてたんです! (2023年7月30日 16時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
ねう。(プロフ) - 一気読みさせていただきました。とても面白かったです…終始涙が止まらず、胸が苦しくて笑 冒頭から終わり方まですごく綺麗で、凄く素敵な作品だなと思いました。ごく稀にお前って呼ぶスタイルすごく刺さりました。アナザーストーリー的なで玲王の恋路も気になります笑 (2023年7月29日 10時) (レス) @page46 id: dee5bda7f0 (このIDを非表示/違反報告)
chiito(プロフ) - まぴさん» まぴさん、嬉しいコメントありがとうございます!!更新がんばりますので、これからもよろしくお願いします〜(^^) (2023年7月17日 12時) (レス) id: db14ec3e34 (このIDを非表示/違反報告)
まぴ - いつも楽しく小説見させてもらってます✨凪くん大好きなので嬉しいです!これからも応援してます! (2023年7月16日 23時) (レス) id: 860b8d9e21 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:chiito | 作成日時:2023年7月16日 10時