勝ち戦‥‥【YG】 ページ36
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YG side
「Aさん入られます！」
その声に顔を上げると、"Hermes"を象徴するシルクスカーフ"カレ"を首元に際立たせ、モノトーンのチェック柄のウエストシェイプしたジャケットにミニスカート、足元はジャッキーブーツ、そして丸い騎士帽から垂らしたポニーテールを揺らしながらAが入ってきた。どうやらジョッキーがキーワードらしく、まるで貴族の世界から出てきたかのような高貴な雰囲気で溢れている。元々気品ある彼女と相まってか、この場にいる人々の心を一瞬でとらえていた。
そんな彼女は俺の前で一度立ち止まると何を思ったのか『充電させて。』と抱きついてくる。Aが自ら、しかもこんな公衆の面前で。
「、皆見てるけどいいの。」
そんな言葉とは裏腹に習慣付いた素直な俺の腕はAの背中にまわる。衣装やメイクが崩れないよう細心の注意を払いながら目元にかかった髪を横に流してやると、そんな気遣いを無視するかの如く俺の胸に顔を埋めるA。この状況、俺は大歓迎だけどこれ以上Aのこんな愛くるしい姿を人目に晒す訳にはいかない。そろそろ撮影も始まるだろ、とAの肩に手を置いたその刹那、
『ゆんぎ大好き‥』
Aが今にも消え入りそうな声で呟いたのを俺は聞き逃さなかった。何なんだよお前は、どんだけ可愛いの。堪らなくなって「俺も。」と桃色に染まったその柔らかな耳にそっと唇を落としてやる。そして名残惜しそうに俺の体から指先が離れる頃には彼女はいつもの"BTSのA"の顔に戻っていた。
『今日は宜しくお願いします。』とスタジオにいる関係者に頭を下げるAが落ち葉や植物が敷きつめられたセットに足を踏み入れると、草の香りが鼻をくすぐるようだった。そうして始まった撮影を邪魔にならない場所で眺めていると、不意に人の気配を感じたので横に目を遣る。
「どうも、SUGAさん。お久しぶりですね、以前一緒にお仕事させて頂いたカンです。覚えてらっしゃいます？」
「‥勿論。その節はA共々お世話になりました。」
嫌でも忘れるかよ。相変わらず胡散臭い笑みを浮かべながら、俺の隣に立つそいつの視線は真っ直ぐにAを捉えていて、俺はそれさえ気に食わなくて心の中で舌打ちする。
「こちらこそ。今日はAさんの付き添いですか？」
「まあそんな感じです。」
「それにしてもさっきは見せつけてくれましたね〜。」
「ああ、お気に障ったようでしたらすみません。いつもの癖で。」
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作者名：mitsu | 作成日時：2021年7月19日 23時
