浮き世離れの今日【名探偵コナン×鬼滅の刃】

参拾肆 ページ34

部屋に弾丸のように突っ込んで来たのはカラスだった。

真っ黒なカラス。カラスはAさんの前に止まり、そして喋った。

…インコや九官鳥が喋るのは分かる。だけど、カラスが話すのは初めてだ。

『…てっきりお前はこっちに来てないかと思ってたよ』
「ワタシガシナノモトヲハナレルコトハアリエナイ！アリエナイ！」

…それも、まともに会話している。

「…カラス…だよね」
『ああ。この子は鎹烏』
「かすがい…？」
『鬼殺隊隊士に一人一羽付けられるものなんだ。主に指令の伝達や手紙のやり取りを担ってくれる』
「へ、へぇ……」

つまり、伝書鳩、のカラス版か。

『こちらに来てから見かけなかったから…置いてきてしまったと思っていたけど…無事でよかった』

Aさんは本当に安心したように言うとカラスの頭を撫でる。…カラスは気持ち良さそうに目を細めていた。

『……ああ、そうだ』

何かを思い付いたのかAさんは顔をぱっとあげる。

『匂い袋ってまだある？』

そう尋ねた先はカラスだった。…匂い袋？そのままの意味なら匂いがする袋だけど…。

Aさんがカラスの元に手のひらを差し出す。そしてカラスが口を開いた。

…まさか。

＿ぺっ、と何かが吐き出された。…それは確かに袋に見えた。小さな、お守りのような袋。…その袋を透明な液体がキラキラと覆っていた。それが何なのかは聞かなくても分かる。

「…それは？」
『鬼除け』
「！」

その言葉に目を開く。

『この袋の中には鬼の嫌う藤の花が入ってるんだ。だからこれを付けていればまず襲われることはない』
「藤の花…ですか」
『はい。…こちらにも藤の花はありますか？』
「あるよ」

Aさんの問いに答える。鬼は藤の花が嫌いなのか…。

「一応その中身を見せて。…もしかしたらボクたちが知ってるものと全然違うかもしれないから」
『構わないよ』

Aさんは袋をあけると自分の左手の平に傾ける。…紫色の細かい粉末。ほのかに柔らかい匂いがした。

紛れもない、藤の花だ。

『どうかな』
「…うん。ボクたちが知ってるものと同じだと思う」
「…警部、調べますか？」
「ああ。…構わないかね？」
『ええ』

Aさんは袋の中に粉末を戻す。そして袋を高木刑事に渡した。…微かに顔をしかめたのは透明な液体のせいだろう。

高木刑事はそのまま部屋を出ていく。

『……すみません。先程の言葉、訂正します』

また沈黙に戻るかと思ったら意外にもAさんが破った。

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