さくらんぼは最後に食べたい

我儘、利子付きで/1 ページ1

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所謂デジャヴ、というやつだと思う。

この光景は2010年のあの日を彷彿とさせる。ただし、缶コーヒーを持って現れたのは私ではないし、ここに座り込んで泣いているのは彼ではない。


「よっ、A」

「ヨンホ」


聞き慣れた声に振り向くと、彼は二つ持っていた缶コーヒーのうちひとつを投げてよこした。慌ててそれを受け止めるとアメリカナイズの綺麗な発音で「Nice catch」とヨンホは笑みを浮かべる。


「A、泣いてるかと思って」

「そりゃあね。でももう枯れたかも」

「ハハ」


そんな強がりを抜かしながらもボロボロと涙が止まらない私を見てヨンホは可笑しそうに笑う。何よ、自分だって泣いてたくせに。そんな恨みを込めて軽くヨンホの肩を叩いても彼はビクともしなかった。

Red Velvetのデビュー組に選ばれてからというもの、私は以前にも増して努力を重ねた。努力をした人みんなが報われるとは限らないけれど、報われる人はみんな努力しているのだ。ボイストレーニング、ダンスレッスン、体重制限、エトセトラ。女の子は時として大好きなトッポギもチーズハットックも我慢しなければいけないのだ。そんな努力もむなしく、手のひらに乗ったチャンスを、どうやら私は掴み損ねてしまったらしい。


デビューメンバーとして選ばれなかった私を心配そうに見つめていたスルギオンニの顔が脳裏から離れる気配がない。
スルギオンニと私は同じ年に練習生になったこともあって、練習生の中でいちばん懇意にしてくれたオンニだったし、実力もあったからスルギオンニが選ばれたことには何の不満もなかった。私は選ばれなかっただけ。

すとん、と心臓に着地したその事実を「はい、そうですか」と受け入れることは、存外やさしいものだったけれど、その事実はどうしたって悔しくて悲しくて仕方がないのだ。


ジュヒョンイオンニは誰よりも綺麗だったし、スルギオンニはダンスも歌もできるエース。スンワンイオンニの歌の実力はずば抜けていたし、スヨンアは不思議と人を惹きつける魅力がある特別な子。
選ばれた子達を認めていないわけじゃない。それでも私の何がダメだったのか、わからない。私のビジュアルだって、ボーカルだって、ダンススキルだって。私が重ねた年数に比例して成長したそれらは私の誇りだったのだから。

…そんなわけで、私は現在進行形でヨンホの腕の中で泣いているわけだけど。


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