α indi

水浅葱の遊戯＿kwmr ページ27

薄浅葱の出会いの番外。

夢主不在。



***



「河村さん、女できたの？」


「は？」



コーヒーブレイクの時間を邪魔するのは伊沢の一言、静かな源に石が投げ入れられたように、ざわめきが隣へ、隣へと伝わっていく。

最初は突拍子もないその発言に眉をひそめ左隣を睨んだが、ふとおもいあたる節があったことに気がつく。

数日前から僕の家に居候をしているAさん、きっと彼女のことだ。

納得しかけて、一拍おいてとんでもない謎を見つける。



「いざ、お前、見え……」


「……見えるってなにが？」



空気が漏れる口からやっと出たのは、継ぎはぎの単語ばかり。

首をかしげる我らが編集長、それでも持ち前の読唇術で此方の意図を汲み取ってくれる。

余計な此方の心境まで盗み見されるのが厄介な点だが。



「どうしたの河村、体調でも悪いの？」


「なんか顔色悪いですよ？」



心配の声も何も届かない、これが誰の声かも判別がつかない。

彼女が、Aさんが僕以外の誰かから見えているかもしれない。

そんな事実が余裕をなくしていく、息を荒げさせる、心臓を締め付ける。

なんて聞けば良いのか、そう路頭に迷った挙げ句導きだしたのは。



「皆、これ」



対象外かもしれない人間に対して、十は言いたくないし言えない。

コーヒーカップの横に伏せてあったスマホ、アルバムを開いて上から二段目ほどのとある写真を映し出す。

テーブルの上に置いて、皆がそれを取り囲むように輪をつくる。

ただ室内を映しただけの平面図、そう見えればそこまで。

不安と共に視線を戻せば、驚愕、後愉快そうににやける伊沢の絶妙な具合の顔が。

図星をつかれたような、彼の思惑にハマってしまったような、納得のいかないこの感情をかき消すように珈琲を啜る。

“苦い”の重複。



「えええええっっっ!?!!?」



伊沢でも、ましてや僕でもない耳をつんざくような騒音。

迷惑そうにする須貝さんの視線も気にせぬ様子で、眼鏡を外しては裸眼で確認し、また混乱の渦に陥るそれはこうちゃん。

口を開き目を精一杯丸くするその姿は、餌をせがむ金魚をそのまま見ているかのようで。

気がつけばそれがこうちゃんだけに留まらず、山本、福良、ましてや川上にまで至る全員が写真に釘付けになっていることが判明する。

Aさんの情報が確かなら、妖精の類いが見える人はこの世に多くて十数人程だった気が。

そのうち七人が同じ組織内に集結、これは何かのドラマだろうか。

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