Apatite

深紅に染まれ＿kwkm ページ8

僅かな灯りである、赤みを帯びた満月がぽっかり浮かぶ、深淵の夜。

荒い岩肌が露出した暗闇の荒野には、無機質な発砲音が響いていた。

数発纏まって轟き、暫しの静寂の後に続いて数発。

その音の中には、私の手元が音源のものが幾つかある。



「こりゃ、もう使い物にはならなそうだな……」



一際大きな岩に身を潜め、私は苦い顔で愚痴を溢す。

岩の裏側には一台の簡素なバイクが横たわっている。

あれは元私の所有物、今は燃料タンクから液体が漏れ落ちて、ただの穴だらけの鉄の塊に成り下がったが。



「結局は勝って奪うのみ、か」



旅を続けて早五年近く。

華の二十代と呼ばれるその期間も、私はまだ見ぬ景色に想いを侍らせて棒に振ってきた……と他人は評価する。

それの何が悪い、自分の中に新たな知識が、何かが埋まっていくのはそれこそ快感なのだ。

出たばかりの頃はショートだった黒髪は、もう腰の長さまでざんばらに伸びている。

此方が身体を休める中、相手は容赦なく発砲を続ける。

下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、そうかも知れないが、相手が視認出来ていなくては弾の無駄というものだ。

恐らく二人、腕前から見て手練れではない筈。



「さ、腹を括ろう」



愛用してきたリボルバーに弾を込める。

残りは六発、弾の補充はバイクの荷物からでないと出来ない。

もしくは相手の武器を奪うか、隙を見て荷物から弾を取り出すか……

三発で一人、行けるだろうか。



「成さなければ、死ぬだけ」



まず一発。

相手が居たのを確認出来た最後の位置。

……外れたか。



「っ……！」



朱の混じった黒に揺れる、もっと濃い闇。

考えるより、理解するより先に砂の地面に伏せる。

揺れる黒髪、影の方へリボルバーを構える。

遅れて相手の発砲音が三発、私の発砲音が二発。

その後には、静寂の代わりにドサリと重い音が聞こえてきた。

残り三発で一人、耳を澄ませる。



「＿＿無理か」



今聞こえるのは、風が岩肌を撫でる音と砂煙が舞う音だけ。

逃げた訳ではなさそうだ、私の荷物を放って何処かへ行くのは相手にとっても愚策だから。

鬱陶しい位に快晴な癖に、何も見えやしない。



「これだから夜は……」



嫌いだ、という言葉は飲み込んでまた耳を澄ませる。

変わらぬBGM、風に砂煙に……居た、足音。



「っ……！はっ!!」



息を荒げて後ろを振り向けば、丁度私が隠れていた岩影の反対から相手が姿を表す。

重なる発砲音は、三発響いた。

＿→←ふかふか堕落＿izw

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