Apatite

＿beautiful and sleek ページ50

何故Aさんは僕なんかの脚に惚れたのだろうか。

最高だと思う部分は幾ら限定的でも構わないが、好意に差が有りすぎるのは頂けない。

今僕と駄弁る彼女、やはり視線は僕の足元へと吸われている。

少し足先を動かすだけで、ビー玉のような黒目がコロコロとつられて揺れる。

これは話が右から左に流れている時のAさんだ、返事が単純だしまるで録音したみたいなリズムだし。

なんだか悔しいから、ちょっと仕返し。



「……河村さ、んっ!?」


「如何しました？」


「いや、だってなんか此方見てるから……」


「Aさんが好きだという僕の脚を見るように、僕も自分が好きなAさんの全身を見てるんですが」



僕の話が途切れたのに漸く気づいた彼女、顔を上げてまさにテンプレさながらの驚きようを見せる。

そりゃそうか、ふと目を上げたら突然僕と目が合うんだから。

「ひぇぇぇ……」と目を背ける彼女の両頬に手を添えて、軽く力を込めて正面を向かせる。

女性の肌ってやっぱり柔らかい、とか今このタイミングで考えるのは不謹慎か？

自然と目線は上へ上へ、狼狽えてるのが手に取るように分かる。



「や、ちょっと、恥ずかし……」


「散々僕の脚を見ておいて、自分は駄目なんですか？」



ただのやり返しの筈なのに、ヒートアップしてるのは彼女が可愛いからってことで。





*




「拓朗」


「何」


「昨日告白され……って待って待って。取り敢えず座り、んで落ち着いて」



座ってなどいられるか。

Aがどこの馬の骨かも分からぬ男に告白されたんだ、事案だ事案。

でもAの言うことの方が無論正しい、まだ詳しく聞いてないから潰しに行けないし。

その前に此処はファミレス、お昼を済ませたから出る時に勘定を払わねばならない。



「誰に？年上？どこの学部や？」


「やから取り敢えず落ち着け言うとんの。一個上の先輩、多分拓朗も知っとる」



Aが取り出したのは黒の質素な革素材のカバーが付いたスマホ、ある写真を俺に見せてくれた。

……知っとる、今同じ授業取っとるわ。



「というか拓朗、なんでいっつもうちの恋愛沙汰に口出しすんの。まさか……」


「どう思っとんのか知らんけど、対象としても見とらんし陥れようとかいう思惑もないわ」



ほんと、そんな失礼なことが出来る訳がない。

Aに直接関与出来るなら、いっそのこと閉じ込めてしまいたいけど。

さ、取り敢えず帰ったら彼奴をどうやってはね除けようか。

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