Apatite

another side＿clumsy and stir ページ48

彼女は不器用な人だ。

打楽器を担当すれば見事に八分音符分ずれる上に、バチが太鼓の縁に当たって間抜けな音を立てる事はお決まり。

手芸の授業があれば絆創膏が不可欠で玉結びした筈の所はほどけるし。

決して出来ない人じゃないのに、勿体ないなというか。

一時期そんな彼女の隣に居た僕は、いつの間にか「器用だ」と称賛されるようになった。

でも、仮に器用な人だとしても。

僕は決して立派な人間なんかじゃない。

君の望む答えすら、僕には見つけてあげられないんだよ。



「え、あ、別に？ほら、私元気だよ」



嘘、バレバレ。

目は泳いでるし、僕、Aちゃんが出鱈目言う時の癖だって知ってるんだから。

すぐ口元に手をやっちゃうの、それって本心を隠す為にでしょ？

やっぱり評価に違わず不器用……これは悪口に入るのだろうか？



「そっか」



柔らかく笑ってみせれば、彼女は安心したようにまたポテトを食べ進める。

純情、なんか素直だなぁ。

感情を隠せない君に比べて、僕ってばなんて汚れてるんだろう。

君が僕に向けた思い、知ってるよ。

嫌いだけど好きなんでしょ、劣等感を抱いてても嫌いになりきれないんでしょ。

気付かない演技を貫き通してる僕、中々に器用だよね。

皮肉交えに自虐してみても虚しいだけだ。



「……はぁ」



小さな小さな、呆れのため息一つ。

Aちゃんの不器用に漬け込む、最低な僕宛てに。

好きだよって面と向かって言えない、情けない僕宛てに。





***





店を構えて早一月、お客の数は両手でギリギリ数えられちゃう程。

副業だから繁盛しなくても良いけど、なんて負け惜しみ。

密かな憧れでもあったバー、開店は華金の夜にひっそりと。

誰か来ないかな、なんて思ったその時、タイミング良く。



「いらっしゃいませ……あ、御初の方ですね。tipsyにようこそ」



入ってきたその客は、きらびやかで綺麗というよりも、着飾らず自然体と称される女性。

スーツ姿に少し乱れた髪、きっと仕事帰り。

バーに来たのは初めてだというので、あまり癖のないカクテルを出そうと思う。

この店の看板メニュー、込められた言葉が洒落た一杯。

静かにかき混ぜれば、それにつられて女性の瞳が左右に揺れる。

商品ケースに夢中な子供のようで、少し滑稽だった。



「お待たせしました。此方コロネーションとなります」



この意味は、帰るときにでも教えてあげよう。

次の出会いにグラスを交わせるかは、彼女の頑張り次第。

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