Apatite

＿ ページ24

拘束から逃れたところで、次は脱出の手立てを考える。

自力とはいかずとも、外と連絡が取れれば十分だろう。

目指すは警察との電話、それからここが何処かを特定すること。

不安要素は未だ姿を見せない誘拐犯、もしかしたらこの様子は録画されているのだろうか。

監視がついていると想定すると、脱出は一気に困難を極める。

この場合私が困るのは只の身代金目的の犯人だった場合。

これを娯楽として楽しまない以上、拘束を逃れた私に怒りを露にするのは目に見えている。

しかし後者だった場合も場合だ、私の現状が想定されている以上、逃げ切るのにも何か対策が練られている筈なのだ。

今は部屋からの脱出は避けるか……

真相に近づいた以上、臆病な私にはこれが限界だ。



「せめて間取りでも覚えよう」



もしまた捕まりそうになったら、それを想定して私は部屋の中を彷徨く。

部屋は石造り、部屋には窓はなく、明かりは天井の白熱電球一つのみ。

どこにも監視カメラは付いていないが、小型のものがあったって不思議じゃない。

家具はなく、食料の類いも見つからない。

使える障害物は椅子のみ。



「……ん？」



椅子の足元に何か挟まっている。

褪せた青の布のようなそれには有名な女性用ブランドのロゴマークが。

考えられる可能性は二つ、犯人が女性であるか、私の前にここに居た別の女性が居るか。



「っ……!!」



思考を巡らせている間に、くぐもって聞こえる硬い規則的な音。

……聞き馴染みのあるリズム、まさか階段を昇る音？

犯人が来る、そう本能的に悟った私は布切れを握りしめ椅子の後ろに立つ。

音はドアの前で止まり、ゆっくりとノブが捻られる。



「Aちゃん、気分は如何……って、あれ？」



殺伐とした空気に似合わぬ柔らかな声色、眼鏡の奥から覗く瞳。



「福良……さん」


「睡眠薬が弱かったかな？でもこんな短時間でもう解いちゃうなんて、やっぱりAちゃんって賢いんだね」



福良さんが、愉快犯。

昨日は珍しく、グループラインじゃなくて個チャで打ち合わせがあるって連絡をくれてたけどさ。

一昨日ぐらいに「そういえばAちゃんって家近いの？」とか聞いてたけどさ。



「でもやっぱり馬鹿って見てても面白くないもんね。これからもっと楽しくなるんだからさ」



絶望に打ちひしがれる私を他所に、福良さんは恍惚の表情で早口に捲し立てる。

これから起こる事を想像して、私は静かに涙することしか出来なかった。

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