＊ ページ12
「…まず出会いが最悪だったからね。」
最初っからなんだ、と思うと同時に教えてくれるんだ、と安心する。
Aは別の棚に歩み寄りながら続けた。
「考え方も、性格も真反対。」
いがみ合っている二人の姿を思い出す。
「師への思いも、全く違った」
私じゃないからね、とAは付け足した。
Aの脳内には出会う度心中に誘ってくる男の姿が浮かんでいた。
首を振ってそれを消す。
「生きる事への想いも、違った」
緑谷はゴクリと唾を飲み込む。
それじゃ、まるで＿＿
Aは棚から何かを出し、手に持ちながら顔だけ緑谷に向けた。
「緑谷、敦と仲良いでしょ」
「へ？う、うん」
急に話が変わった事に驚き、変な声を出す。
「敦の事、宜しくね」
そう言って、微かに微笑むA。
その微笑みの美しさに思わず見惚れ、ボーとする緑谷。
時たま見せるこの微笑みに、二人も落ちたのだろう。
心底そう思った緑谷は、心を入れ替えるために己の頬をつねった。
「はい、」
Aは一枚の皿を差し出した。
疑問符を浮かべて受け取る。
「…え」
ひんやりとした皿、中に入っていたのはアイスだった。
驚いてAを見ると彼女も同じように皿を持ち、スプーンで口に運んでいる所だ。
「アンタの事はリカバリーガールから聞いてる」
やっぱり先生扱いなんだなぁと、緑谷は頭の隅で思った。
「アンタも大変だね、平和の象徴と同じ個性、か」
「あ、じゃぁオールマイトの事も…」
「知ってる」
「な、何でアイス…？」
Aはもう一度アイスを口に運びながら平然と答えた。
「アンタだけだよ、色々頑張ってるみたいだから。」
緑谷は手元のアイスを見下ろす。
一口スプーンで掬い、ぱくりと食べた。
冷たく、甘いものが口の中で溶けた。
「…美味しい」
チラリと、Aを見ると天井らへんを見つめている。
スプーンを口に咥えたまま、何かを考えていた。
ふっとAが視線を緑谷に戻す。
「気を付けなさいよ、保健室常連」
緑谷のおでこに軽くデコピンをして、立ち上がるA。
気を付けてとは、怪我の事なのか、それとも＿＿
怪我の事だと思い込んだ緑谷はおでこを片手で抑え、ギュッともう片方の手を握り締めた。
怪我、しないように頑張ろう、個性の調節を出来るようにしないと…
そこでさっきデコピンされた時、Aの顔が近かった事を思い出し、一人赤面したのだった。
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作者名：Ainyami | 作成日時：2019年8月18日 11時
