はな壱もんめ ・・Kei.Ryosuke・・

＊ ページ39

慧「あ、A」


ふいにぴくんと肩を揺らした慧が、空を見上げる。


A「なぁに？」


慧「そろそろ帰った方がいいかも。雨降る。」


A「えぇ？今から？」




思わず空を見上げてみたけれど、所々に白い雲が浮かぶくらいで、
ぴかぴかと晴れた昼下がりの空。




A「全然そう見えないけど…それに、まだもう少し時間があるよ？」


慧「や、でも本当に降るんだって。冷たい空気が流れて来たもん。
山に住んでるとそういうとこには敏感になんの」


A「でも…、」




まだもう少し一緒にいられると思っていたのに、急にそんなことを言われて戸惑った。




慧はもう少し一緒にいたいと思わない？
今の質問が何か気に障ってしまったのかな




ぐるぐると考え出して俯いてしまう。




すると頭上に、ふは、と笑い声が降ってきて、
彼の手が私の頭をぽんぽんと撫でた。




慧「んもう、そんな顔しないの。帰りが遅くなって華也ちゃんち抜け出したのがバレたりしたら、これから簡単に屋敷を出れなくなっちゃうでしょ？」


A「それは…そうだけど」


慧「そしたら俺はAに会えなくなっちゃう。そんなのやだよ。これからも会いたい。…だから今日は帰ろう？」




諭すようにもう一度頭を撫でてくれた手は、そのまま私を引き寄せて抱きしめた。





慧「…ね？」





胸元に顔を埋める。
ふわりと慧の香りに包まれて、きゅんと締め付けられるような思いがした。




A「…またすぐ会える？」



見上げた先、慧の白いのどぼとけがこくりと動いた。



慧「会えるよ。きっとすぐ会える。」




少しも確証はないその言葉だけど

慧の口から聞くと本当にそうな気がして、いくらか安心した。




A「…わかった。今日は帰る」



慧「近くまで送ってくよ」





慧はそう言って笑うと、私の手にその白くて長い指を絡ませた。

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