はな壱もんめ ・・Kei.Ryosuke・・

＊ ページ15

A「あれ…？」




込み上げてくるものを飲み込んで、ごまかすように指で彼の髪を梳かしていたら、

こめかみの辺りに赤く線が走っていることに気が付いた。




A「慧、ここどうしたの？傷になってる」


慧「んぇ？なんかあった？」




それは既に治りかけていたけれど、傷跡であることは間違い無くて。




A「けっこう深そうだよ…痛かったでしょ？」


慧「あー…あんの時の、かなぁ…」


A「？」




少し遠くを見るような目をした慧は、それきりまた読みかけの本に視線を戻した。




A「あ、待って、私いい薬持ってる」


慧「いーよこんなん。ツバ付けときゃ治る」


A「だめだよ。それにね、これ本当によく効くから」




言いながら文机の引き出しに手を伸ばす。
ころんとした小さな容器の蓋を開けた。





A「幾松がくれたの。薬草とかいろいろ入ってるみたい」



膝の上で寝転がったままの彼のこめかみの辺りに、軟膏を丁寧に塗り伸ばしていく。



A「まだ痛む？」


慧「別にぃ」


A「ふふ、転んじゃったとか？」


慧「…なんでわかったの」


A「えぇ、当たっちゃった」




バツの悪そうな顔でこちらを見上げる彼に思わず笑う。




慧「寝ぼけて土間に落ちたんだよ。ダッセェから内緒だったのに」


A「慧でもそういうことあるんだ」


慧「うっせ」


A「ふふ、照れたな」




慧が「寝ぼける」だなんて、想像するだけでもなんだかかわいくておかしくて、きゅんとしちゃうな。

こっそり笑いながら、容器の蓋を閉める。




A「よし、これできっとすぐ良く、」



A「なる、よ…、」






ふいに彼の手が伸びてきて、私の右手を捕まえるから、


どきんとして言葉が変なところで途切れた。





さっきまで彼のこめかみに薬を塗っていたその指先を、


まるで舐めとるみたいにしっとりと、慧の指先が絡みついてくる。







慧「…これ、めっちゃいい匂い」


A「…っ、でしょ？柑橘とか花の蜜とかいろいろ…入ってるみたい」


慧「ふぅん」







彼の綺麗な指先は、そのままぎゅ、と私の手を握り、

手のひらの中で、彼の温度が溶けていった。

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