2.紅色の鬼。 ページ4
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遠くで小鳥のさえずりが聞こえ、柔らかく暖かい風が頬を撫でた。それは春の暖かい陽気そのもので、私は目が覚めてからもしばらくの間あまりの心地良さにぼーっと天井を見上げていた。
目覚めたばかりで少しだけぼやぼやする視界の中で、天井の木目を見つめる。見慣れない天井だ。我が家も築年数のある古い家なのでそれなりに趣のある木造建築ではあったが、うちよりももっと年数を感じる。
「あ、起きた?」
「…………だ、れ?」
「誰って……あぁ、まだ力が戻ってなかったんやね。でも大丈夫、俺のこともちゃんと思い出せるはずやし」
「はい……?」
「俺は坂田、Aのお婿さんやで」
おむこさん……?あ、お婿さんって、旦那さんって意味だっけ。
横になっていた体を起こしながら、まだ寝起きで上手く働かない頭を動かしてそんなことを考えていると、ふとあることに気づいた。今この人、自分が私のお婿さんだって言った?
訳が分からなくて唖然とした表情を隠しきれないまま彼のことを見つめるが、燃えるような赤髪とルビィのように輝く宝石眼を持った綺麗な顔の青年はニコニコと感じのいい笑顔を浮かべるだけだった。まるでそれが至極当たり前だとでも言うかのような表情である。
「じ、冗談では……」
「ないね!俺とAは前世から結ばれる運命やったからな〜!」
そう言って、彼─────坂田さんは私にぎゅう、と抱きついた。そのときになって初めて気づいたが、彼は肌触りの良い綺麗な着物を身に纏っていた。赤と白を基調とした桜の柄が描かれた見事なものである。
なんだかお高そうなものを着ているので抵抗するのは躊躇われたが、見ず知らずの男性にこんなに抱きつかれていてはいけない。そう思った私は、抱きついてきているせいですぐ近くにあった坂田さん顔を申し訳ないと思いながらもぐっと手で押しのけた。
「ぐえっ」
「や、やめてください!」
「なんで?」
「え?」
「なんでいかんの?Aと俺は夫婦になんのに、そんなに恥ずかしがること?夜になったらもっと恥ずかしいことするようになるのに?」
そんなことを言いながら、坂田さんは私が彼を押しのけるために伸ばしていた手を捕まえて、自分の指を絡めるようにして手を握ってきた。
するり、と優しい手付きで手の甲を撫でられる。その動作があまりに妖艶で、坂田さんの紅色の瞳が私のことを捉えて離してくれなくて、動けなくなってしまった。体が言うことを聞かない。
「A、顔真っ赤や。ほんまにかわいい。そんな顔されたら、もっとしたくなっちゃうやん」
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李 雨月(プロフ) - かわいい私が好きさん» その言葉がいただけて字書き冥利に尽きます(照) タイトルもこだわっているので褒めていただけて嬉しいです。コメントありがとうございました〜! (2022年11月8日 22時) (レス) id: 8fe15b8549 (このIDを非表示/違反報告)
かわいい私が好き - 題名だけでドタイプを貫いていたので覗いてみたらもう最高の作品に出会いました👐✨これからも読み続けます😉 (2022年11月4日 20時) (レス) @page12 id: 28b1a8c3b0 (このIDを非表示/違反報告)
李 雨月(プロフ) - みこさん» 一コメですよ〜!面白いと言っていただけてとても嬉しいです!コメントありがとうございました◎ (2022年10月17日 0時) (レス) id: 2d25cdcdc2 (このIDを非表示/違反報告)
みこ - 一コメ、、、?めっちゃ面白いです!ありがとうございます!更新楽しみに待ってます! (2022年10月10日 15時) (レス) @page11 id: 3112c05530 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白雨 | 作成日時:2022年9月19日 21時