◆ 知りたがり ページ9
＊
「依代を壊せる二人がいるなら、話も早いや」
「……え？ 二人？」
「私と、寧々ちゃん」
花子くんはふわふわと浮きながら少女たちの肩を掴む。相変わらず近距離であるが、そんなことよりも寧々には気掛かりなことがあった。
それは、自分に依代を壊せる資格があるということ。
Aは簡潔に、「二番の時は私が壊したけれど」と付け足す。寧々はとりあえずと今は話だけを飲み込むことにした。
「……てことでぇ、依代ちょーだい？」
「……断る、と言いたいところだが」
Aは案外、土籠がさほど依代に執拗いようではないことに驚いた。ミサキ階段の時、ヤコが必死に自分たちを止めようとしていた事例があるからだ。
しかし彼の言葉には接続詞がある。そのことに気が付いた頃、土籠は花子くんたちの前からスっと姿を消してしまった。
「俺ァ、荒事は好かん」
驚くべきことに、土籠は蜘蛛のような白い糸で宙ぶりになって再び現れた。
花子くんも寧々もAも光も、もっけまでもがその様子を形容しがたい目つきで眺める。
「この書庫を依代探しの名目で荒らされるのは御免だ」
「アンタ、喧嘩弱いだけでしょ。正直に言いなさいよ」
「黙れエキノコックス。依代を渡せと言うなら応じよう、ただし条件付きだ」
ヤコに頭を噛まれ出血しながらも、土籠は淡々と話し続ける。本当にこの二人の仲は険悪らしい。
「ジョーケン？」
「俺は知りたがりな怪異でねェ。ここ、『16時の書庫』は学園にまつわることなら過去から未来まで、全ての知が集積している自慢の社だ」
境界を持つ七不思議というだけあって、自らの空間に自負心すらあることが読み取れる。
確かに噂でも、似たような話が学園中に広がっている。この書庫にある情報量と言ったら申し分ないと評して良いほどだ。
「たとえ一時でもこの書庫を俺から奪うと言うのなら、それに見合う情報を寄越せ」
「情報……？」
「そう、つまりお前らの個人的な秘密を教えろ」
その言葉に光たちの目からハイライトが失われた。条件がまさかの条件であったが為に、寧々たちは声を荒らげる。
「は、はァーっ！？」
「ひひ、秘密！？」
「知りたがりだっつったろ」
はー、と白い息を吐いて土籠は冷淡に呟く。それでも子どもたちには理解しがたく賛同しがたいものであった。
隠したいから秘密なのだ。わざわざ自分から吐き出すなんてするわけがない。
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