◇ 人に紛れて ページ6
＊
「イジメちゃだめ」
「へいへい。わぁーってますよ、七番サマ。冗談ですっと。我らが首魁の客人に手は出しませんさ」
少々乱暴気味に子どもたちを手放して、先生は本心なのか冗談なのかわからない態度で口走る。
体を床に勢いよくぶつけ微量な痛みが巡る。しかしそんなこと気にしていられないと、Aは口を開く。
「花子くん……！」
「紹介が遅れたね。七不思議が五番目『16時の書庫』管理人の
花子くんの陽気な声についていけた人は、果たしたこの場に存在しただろうか。
†
「七不思議五番目……。まさか、学校の先生が人間じゃなかったなんて」
「別に珍しかねェよ。実際、人に紛れる怪異は相当数いる」
喫煙具を吸いながら本に目を通す先生、もとい土籠は白い糸をハンモックのように使用して気だるげな姿を見せる。その大胆さと言ったら先生の状態とは打って変わって、嘘だと耳打ちされてしまったらなんの迷いもなく信じてしまいそうだ。
人間だと思っていた先生が実は怪異で、かつ七不思議という事実に少年少女は驚きを隠せない。
「そうなの？ A」
「……らしいよ。怪異は噂が絶えれば此岸にいられなくなっちゃうから。自分で自分の噂を流せるっていうのはかなり重要なんだって」
九条家で培った知識を述べるAだったが、彼女自身も未だこの状況を詳しく理解できていない。何故って、人間のふりをした怪異に遭遇したことがないからだ。
「もしかしたらいるのかも、生徒の中にも。少なからず」
自分への戒めの意味も込めて、ポツリと呟いた。これから先、そういう事態に巻き込まれる可能性はゼロではないと教わりながらも上手く対応できない自分に言い聞かせた。
そしてこれは、事実を述べるという役割も同時進行で果たしたのだった。
「そ、それって危ないんじゃ……！？」
「ヘーキヘーキ。そうならないよーに、俺たちがいるんだから」
シャリン、チャリンとした鈴の音とともに、花子くんがこちらからの注目を集めた。
「我ら七不思議！」
「……学園に存在する全ての怪異を監督し」
「ヒトと怪異の関係を正しく保つ」
いつの間にか連れてきたヤコと三人、花子くんを筆頭に高らかと声を上げたのだった。
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