254.唯一無二の存在【side NINO】←10/28 ページ14
腕の中の彼女は小さく
真実を打ち明けるにはこの土台がどうしても必要だった
彼女が最小限に傷つかないように
彼女の母親が夢見ていたテーラーを
彼女を選んだ事によって現実その夢を手放した母親の夢を彼女が受け入れられるのか
勿論、彼女がその事実を知っていたなら何の心配もない
ここに至るまでに彼女がこの事を知らなかった事に問題がある
何も知らず彼女はこのレールの上を自分の力だけで走ってきたと信じてたから
でも
そこには彼女のお母さん
そして大野さん
お祖父さん
その要素全てが彼女を導いてきたから
仕事へのプライドもあるだろう
家族への愛も
恩師への敬意も
踏み間違えたら彼女はきっと今まで自分で築き上げてきたものですら信じられなくなるから
やっと彼女が見つけた未来を閉ざす事だけはしたくなかった
そんな事
誰も願ってはない
彼女を"宝物"と言った
あの人も…
「イギリスは夜だけど電話してみたら？」
A「でも…何て言っていいか…私」
「何もAちゃんが話す事はないよ、貴女の声を聞きたいって…………きっと仕事にもならないで待ってるだろうから…貴女の魔法使いが」(笑)
小さく腕の中で頷く彼女
「外にいるから終わったら声かけて」
A「でもっ二宮さんお仕事は」
「今の貴女を1人にすると思う？」(笑)
A「ありがとうございます」
店を出てコインパーキングに停めた車から携帯用の灰皿をとると
煙草に火をつけ
大きく一吸いした煙りを
朝の青空に細く吐き出した
あの日
彼女との約束をやぶり
イギリスに行った夜
彼女の部屋で見つけたデッサンブックに描かれた彼女の夢
それは紛れもなく彼女が自分を見つけた証
帰国して直ぐにオーナーである大野さんに相談したのは
お誂えのように改装を計画中のあの店を彼女へ譲れないのかという商談でもあった
共同経営者としてでもいい
そこに拘るような人にも思えなかったけど
あの店が古くからあることも考えたら手放せない理由は金だけじゃないことも承知の上
立地や今までの顧客も含めあのおっさんが彼女にそれを譲る意思があるのか、その心配は申し訳ないけど１つもなかった
それは卑怯だけど大野さんが師弟愛以上のものを彼女に抱いている事は誰もがわかる事だったから
でも
想定内な事に想定外の事がついてきたのは
大野さんと彼女を結ぶものが現実的なものにあった事だった
それは俺がどんなに望んでも手にできないフィールド
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作者名：2-38
| 作成日時：2019年10月14日 11時
